レインウォッチャー

ベッキー、キレるのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ベッキー、キレる(2023年製作の映画)
2.5
じゃあ、わたしもキレる。

日本では配信スルーとなった続編、雑すぎる邦題はいったん置いといても、これはWhat the…?AIが考えたん?いや、今やAIならもうちょい賢かったりして。

たぶん、ただ女の子が悪人どもを殺していく映像が見たいだけなのであれば、特に不満もないのだと思う。しかし、わたしにとっては大いなる「解釈違い」案件だ。

前作におけるベッキーの魅力って、思想とか倫理観とか関係なく、貴重な子供時代を勝手な都合とポジションありきの論理で蹂躙する《大人たち》そのものについて野性的な牙を剥いていたところだと思っている。それが『BECKY』の生きた輪郭であり、他のリベンジアクション映画にはないパワーだった。
そんなベッキーがまるでリベラルというド大人の手先みたく扱われるような続編、誰が観たいというのだろう?

今作のヴィランは、白人至上&女性蔑視主義者の極右テロリスト集団。近年すっかり定着したインセル(Incel、いわゆる弱者男性・非モテを指す)とかのワード(※1)と結びつきが強い類型だ。MAGA勢でもある。
この時点で「あーハイハイお疲れ」って感じではあるのだけれど、まあそれ自体は良いです。問題は、このヴィランたちとベッキーの紐づけに納得感が薄いということなのだ。

Mattの顔面並みにとってつけたような展開(※2)でベッキーはこの敵に向かっていくわけだけれど、結局のところベッキーの動機は湿っぽく誰にもわかりやすい《復讐》に希釈されてしまっていて、本来のゾクっとする危うさは失われている。

もちろん、変わらないばかりが良いことではない。時間が経った分、キャラの精神も成長して然るべきだ。
しかし、本質の部分は理解したうえでのアップデートでなければ、連続性が途切れてしまう。ベッキーの変えようとしても変えられない部分、消せない呪いとはどこにあるのか?それがさっぱり考えられることなく、単に表面的なアクションだけが残された。自分をモノマネしてるみたいだ。

で、トドメにあのひどいラストなわけで…これ、「要するに美少女サイコパスものやん?ええやん?10代と女性に売れるやん?」くらいの十秒会議で作られたとしか思えない。画的な美しさ・工夫もどこへやらで、前作から監督・脚本・撮影といった主要スタッフが総すげ替えされてるのには納得する。

長所があるとすれば90分を切る尺に収めていることくらいだけれど、短いだけで褒められるなら世の男性の約半数はもっと幸せだったはずなのである。
つい先日、『アクアマン2』を今年のワースト候補!とか言ったばかりなのに…スマンありゃウソだった。

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吹き替えCV悠木碧は良い、が、それ故のもったいなさ。

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※1:劇中では女性に対してfemoidなんてワードを使ったり、女性の典型をある固有名詞に集約して呼んだり、とかそれっぽさを演出している。
とはいえキャラとしては誰にも大した掘り下げはなく、やられ役以上でも以下でもない感じ。あるいは、それほど現代のアメリカにおいては説明不要の絶対悪とみなされるってことなんだろうか。

※2:しかもコレ、半分はベッキーの責に見えちゃう。

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前作の拙評はこちら。
https://filmarks.com/movies/90811/reviews/152973405