耶馬英彦

変な家の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

変な家(2024年製作の映画)
3.5
「原作はホラーじゃなかったよね」と、終映後の観客が話していた。相手も頷いていたから、おそらく原作はホラーではないのだろう。オカルト小説といったところだろうか。ジャンプスケアが殆どなかったから、製作側もホラー映画を作るつもりはなかったのかもしれないが、それにしては不気味でジワジワとした怖さがあって、それなりに楽しめた。

 お面には不思議な恐ろしさがあるものだなと、改めて思った。本作品で登場するお面は、能面のようなタイプで、ほぼ無表情だ。そもそも能面という言葉そのものに、無表情という意味がある。能は、シテの動きで無表情の能面に表情を纏わせる。観客が能面から感情を受けとめると言ってもいい。
 本作品で、お面を被った人に恐怖を感じるとすれば、それは観客が自分の心に恐怖を生み出しているということだ。人間は未知のもの、理解できないものには自動的に恐怖を覚える。オカルト作品のメカニズムは、そのあたりに秘密があると思う。
 恐怖の根源には不条理がある。究極は死だ。人が死ぬことは周知の事実だが、自分の死は、受け入れがたい不条理である。死は介在的にしか理解できないものだから、自分の死と他人の死は決定的に異なる。
 理不尽な理由で死に追いやられることには、特に恐怖を感じる。戦争や災害はリアルな恐怖で、シリアスにならざるを得ない。一方でオカルトには、そこはかとない滑稽さがあって、本作品でも思わず失笑してしまいそうになったシーンがいくつかあった。あくまでエンタテインメントなのだ。

 俳優陣はなべて好演。間宮祥太朗は上手い。川栄李奈も達者だ。佐藤二朗がおふざけの演技をしなかったのがよかった。オカルトの滑稽さと佐藤二朗のおふざけが相容れないことは、本人も監督も知っているのだろう。
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