スワヒリ亭こゆう

プリシラのスワヒリ亭こゆうのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
4.0
ソフィア・コッポラ監督の新作はエルヴィス・プレスリーの元妻のプリシラ・プレスリーの伝記映画です。プリシラの自伝が原作みたいですね。プリシラ本人も映画のプロデューサーに名を連ねています。
この辺りを鑑みると本人の体験を基に再現している作品だと思います。
プリシラ目線で撮られた本作はとても美しい映画ではあったのですが、ストーリーは寂しい話でした。世界一モテる男の妻はとても孤独だった事が興味深かったです。全く羨ましいストーリーではなかったんですよね。
エルヴィスってダメなやつだなぁと思いましたもんね😅

本作は自伝が基になってるのを分かった上で観た方が良いです。
エルヴィス・プレスリーの奥さんだったからといって、昔の話が過去の栄光の話だったらハッキリ言って観ていてかったるいと思いますよ。プレスリーは知ってるけど奥さんは別に知らんがな!ですから。
それを惜しげもなくプリシラはエルヴィスとの出会いから別れまでの辛かった話を晒してる訳です。
みんなは羨ましがっていたけど実際は最悪だったっていう話だから観ていてプリシラに同情してしまいますよね。この脚本は見事でしたね。

『エルヴィス』っていう伝記映画もあって、そっちも観たんですが本作のが断然良いです。映像からストーリー、役者、全て上回ってます。

晩年のプレスリーのもみあげを見れば、「あ、コイツあんまり賢くないなぁ…」というのは一目瞭然。
若くして大スターになってしまった事は運が良いのか、悪いのか…スターの栄光と挫折は表裏一体なんですね。
で、賢くないなぁと思っていたんですが14歳のプリシラに惚れてしまうというのは、どうしようもない奴ですよ。
本作を見る限り、悪い奴だなって思ってしまいますね。若い少女を誑かして親元から自分の元へと連れてくるのはダメですよね。

プレスリーがまだハイスクールに通っているプリシラと初めてベッドを共にするシーン。
そこで2人はSEXしないんです。若いプリシラを慮って「その時(SEXする時)は俺が決める」とか言って。
コレは「良い所あるじゃん」って思ったんですけど、その後初めてする時がいつだったのか?物凄い有耶無耶になってましたね。僕の予想、次の日やってんなぁと思います!
卒業式の後にその感じを出してましたけど、嘘つけって思いましたね。何を美談にしてんだ!って思いました。自分もプレスリーに大事にされてた事を言いたかったのかな🤔単にロリコンの話になるのを避けたかったのかもしれません。


ソフィア・コッポラ監督の作品というのは映像に期待します。本作の主人公・プリシラを演じたケイリー・スピーニー。本作でケイリー・スピーニーはヴェネツィア国際映画祭で女優賞を受賞したぐらい評価されています。この女優の子供っぽい所と目を見張るぐらいの美人さの両方を引き出していると思いました。
プリシラが着飾るファッションすらもソフィア・コッポラの美的センスの一部であるのは間違いないです。プレスリー夫妻が住むメンフィスの自宅、【グレイスランド】にプリシラがいる構図だけで美しい芸術作品として仕上がっていると思います。
それと本作の音楽、敢えてエルヴィス・プレスリーの楽曲をBGMに使用していないんです。
プレスリーがテレビやコンサートで唄うシーンだけは流れますが、サントラを観てもプレスリーの歌が無いんです。ラモーンズなどオールディーズの曲が流れてくる演出は本作を近年の流行のミュージシャンの伝記映画とは違うんだという意思が感じられます。
『エルヴィス』『ボヘミアン・ラプソディ』等とは確かに違い、あくまでもプリシラ目線でした。
プレスリーを登場させるのにプレスリーの曲を使わないのは挑戦的ですし、見事だと思います。

ソフィア・コッポラ監督自身も親父が映画監督で自分も小役で活動していたのもあって、アメリカのスターの家族というのがどういう物なのかを彼女なりに分かっているんだと思います。だから、『プリシラ』をここまで孤独で寂しい話にしたのかなと思いました。僕はこの映画はラブストーリーであり、悲劇だと思いました。全く羨ましくなかった。プレスリーもプリシラも。さっきも書きましたが自伝を今以上に描くのは見ていてかったるい。今よりも悲惨だった自虐だから観ていて感傷に浸れるんだと思います。