チッコーネ

僕と幽霊が家族になった件のチッコーネのレビュー・感想・評価

僕と幽霊が家族になった件(2023年製作の映画)
4.5
これまでいわば「不気味な幽霊」として扱われてきたゲイと一般社会のクロスオーバーがテーマになっているが、凡庸なメロドラマでなく、ファンタジック・ホラーおよび香港/韓国ばりの麻薬犯罪劇が並走する凝った脚本で、サービス精神満点。
しかも破綻なくしっかりまとめあげられており、本国での大ヒットも納得の出来栄え。

「台湾で赤い封筒が落ちていたら、拾ってはいけない」というのは事実だそう、「冥婚」は奇怪であると同時に、エキゾティックでもある。
その風習に頼るおばあちゃんたちの手振りの多い挙動は生命力に溢れ、かなり愛らしかった。

演出は常にコメディが優勢。
カーチェイス場面はよく観るとほぼCGだが、アクション場面は倍速などの編集に頼らず実写で頑張っているのが伝わってきた。

スチールにも使用された「空中浮遊した男の幽霊が、男を股に挟む」の図は大胆で、非常に映画的。
ゲイの息子と父親との間に生じる葛藤の描写は素直に泣けたが、ノンケ観衆に一番注目して欲しいのは、成立など想定もせず生きてきたゲイが「新設された同性婚を、選ばないこともある」という描写だったりする。
これまでのフィルモグラフィを確認したところ、特に「ゲイの監督」という印象を受けないのに微妙なデティールをしっかりと描けているのは、とても頼もしい。
また主要キャラを活用し、女性を含むジェンダーの相克に光を当てた場面も多かった…、まったくアドバイザーを入れたところで、大したゲイ映画も撮れない日本の監督に、爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだ。
「紅い服の幽霊が云々」というホラーの予告編を観たことはあったのだが、監督作はいまのところ、本作以外未見。
最近の台湾にそれほど期待していなかった私が甘かった、他作も観なければ。