マヒロ

ヒッチコックの映画術のマヒロのレビュー・感想・評価

ヒッチコックの映画術(2022年製作の映画)
3.0
名匠アルフレッド・ヒッチコック監督の独特の撮影技法について、六つのテーマに分けて監督本人が解説する……というドキュメンタリー。

初っ端からヒッチコックの声で「5Gが〜」とか言い出すのでびっくりさせられるが、単にナレーションの人が常に声真似をしているというだけで、語られる内容もヒッチコック作品を観まくって研究したマーク・カズンス監督による考察が大いに含まれたものになっている。そもそもタイトルの『ヒッチコックの映画術』というのが騙しになっているのがイタズラっぽいヒッチコックらしさ……なのかも。

イギリス時代の20年代から晩年の作品まで非常に幅広くカバーしながら、ヒッチコックという人の根底にある哲学や技術について深掘りしていくのが面白い。自分が観たことない作品もかなり多かったが、核心になるようなシーンについては敢えて見せないようにしているところが多くて、興味を惹きつつネタバレにはならないという映像の切り取り方がなかなか良い塩梅だった。
例えば『サイコ』のシャワーシーンみたいなアイコニックなシーンも今作には殆ど出てこない(有名どころで使われてたのは『北北西に進路を取れ』の飛行機のシーンくらい?)。とにかく監督が気になったところを細々と見せていくような形で、かなりマニアックな視点から見ていることが窺えるが、逆にヒッチコック作品を総浚いしようと思うと物足りないところもあるかもしれない。

内容的にはかなり興味深いが、映画の作りとしては地味で、淡々としたナレーションが延々続く他、間を埋めるためかヒッチコックの顔写真が写ってるだけという動きのない時間がかなりあり、コンディションによっては眠気を誘いそうな感じ。監督の作品愛は伝わってくるが、観客側はそれを知識として楽しむだけで、この映画自体はエンタメとして良くできてるとは言い難いかも。
ヒッチコック作品を未見か否かに関わらず、興味があって深掘りしたいという人にはうってつけだし、そうでない人にはそこまで求心力は無いかなと思った。

(2023.127)[27]
マヒロ

マヒロ