田島史也

ナポレオンの田島史也のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.8
ナポレオンがジョセフィーヌへの愛に溺れる物語。英雄か悪魔かの答えは出ず。

Appleお得意の資本の暴力による、大規模スペクタクル。精緻で大規模なセットやエキストラの数、VFXのレベル。血の描写も文句なし。この辺りについては、あえて語るまでもなく素晴らしいものだった。

本作の主題、英雄か悪魔かを問うのかと思ったが、それを判別する要素はあまり無く、ジョセフィーヌに振り回されるばかり。ナポレオンの人生はジョセフィーヌの存在よって語られるものだ、と理解して良いのだろうか。なかなかに、特殊な切り取り方をした映画であるように感じたが、どうなのだろう。歴史に無知な私には判断のしようがない。

ともかく、本作はナポレオンの愛と戦争の人生が描かれた物語である。

史実に基づいた物語であり、意図的に観客の感情を操作することは無い。そのため全編を通じて感情の起伏はあまり無かった。言わばナポレオンの生涯を、主要な戦争と共に辿る作品であるため、テンポよく進んでいった。しかし、それぞれの戦いをじっくりと描いたため、物語に置いていかれることはなく、寧ろゆったりと描かれた感すらあった。

見所はやはり戦争のシークエンスだろう。圧倒的な規模感で描かれた迫力ある描写は、息を飲む暇すら与えない。戦争を盤上に捉えて戦いを映し出す様は、キングダムのそれに比類する。加えてブラックホーク・ダウンのそれを想起させる、地に足着いた臨場感溢れるカメラワークも用いられた。そしてこれら、盤上と戦場の見事な切り返しによって、奥行きのある表現を実現していた。

ブラックホーク・ダウンは音響が最高であったが、本作も芸術的なまでに凄絶な音響を実現していた。IMAXの良さは音響にあり。戦争の場面での音は、誰が聴いてもきっと素晴らしい体験になる。

思うに、史料が豊富な時代であり、かつ、映像に残されていない時代を映画化することには大変な意義がある。正しい歴史認識の元に、其れを再現前化する。本作はまさにそのような作品であり、大いなる意義を感じながら観ることとなった。

最後のシーンがとても良かった。ナポレオンの印象的な帽子と顔のシルエットを中心に据え、左右対称の構図を作り出し、その均衡が崩れることにより、ナポレオンの時代と本作の終幕を象徴的に表現した。生涯を描くから、どうしても最期が希薄なものになってしまわないか心配をしながら観ていたが、杞憂だったらしい。重厚な物語に華を添える、粋な終わり方であった。


映像0.9,音声1,ストーリー0.6,俳優0.8,その他0.5
田島史也

田島史也