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ナポレオンのRickのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.6
 ナポレオンと聞いて、思い浮かべるのは馬に乗り高く手を掲げアルプスを越えんとする勇ましい姿か。それとも、なんとも言えない面持ちで書斎に佇む男の姿であろうか。不可能の文字など存在しないかのように振る舞うカリスマ性たっぷりな姿を期待してこの作品に臨めば、その予想は裏切られることになる。リドリー・スコットの手にかかれば、その軍神性は剥奪され、愚かな部分も弱い部分も全てあらわになってしまうからだ。西洋の知識人らしく、リドリー・スコットは神の存在やその無謬性を鋭く突き崩していく。エクソダスやプロメテウスに見られた、その指向性はナポレオンにも向けられているのだ。ろくに戦うこともできず、ジョゼフィーヌの影に翻弄され、野心は深く持ち続ける、そんな人間ナポレオンの半生を絶妙なバランスで描き切った怪作。
 戦闘シーンのスペクタクル性もさることながら、静かなシーンでもしっかりと魅せるのは流石の手腕。戴冠式やモスクワからの潰走などは、彼を描く絵画に極力似せた構図やライティングで撮りながらも、この映画ならではの味付けで見せていく。変な映画だとは思うが、ホアキン・フェニックスの陰鬱な表情が語りかけてくる謎の重厚感に圧倒されたところはあった。
 エクソダスの時には新王国時代にピラミッドを作ったり、今回では1798年段階でスフィンクスが思ったより砂から露出していたりと、エジプト周りの描写には何故か雑になってしまうリドスコっぽさもあったが、ヴォロジノの戦いでのモスクワの大火の絵を見せてくれたのは、思っていた以上に嬉しかった。ただ、やはりフランス語を話しているはずのところが英語になっているのはかなり気になるところ。特にフランス国内だけではなく、英語を話すイギリス人が出てくる以上、そこの差異をしっかりと示す必要はあったのではないか。
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