田島史也

市子の田島史也のレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.3
ある女。

市子が失踪するところから物語が始まり、徐々に市子の過去が明かされていく物語。市子の過去を知る者から徐々に市子とは何者なのかが明らかになっていく。足りないピースが徐々に埋め合わさっていき、悲劇的な結末がたぐり寄せられていく。

市子と月子と両親と、この家族には幸せな時期もあったのだという。月子の病気が悪化し、市子は月子に成り変わり、幸せを失っていく。そして市子は新たな幸せを市子として追い求め、長谷川との生活の中で確かな幸せを獲得していった。そんな幸せの絶頂に、婚姻届を渡され、市子は市子のままでは幸せになれないのだと悟る。「どうして?」「うれしい」という市子の反応は、彼女の二律背反の心情を表していた。本当は結婚したいが、結婚できない。このまま一緒にいては最愛の人を不幸にしてしまう。そうして市子は失踪した。白骨遺体のニュースが始まる前から、ゆったりと荷造りをしていたことから、市子は自分を守るために、ではなく、長谷川の幸せを守るために失踪したということが、物語の最後に明らかとなった。

時間軸を行き来する中で、学生時代の市子の年齢に関する違和感が生じ、その違和感がストーリーの中で確実に解消されていくのは良かった。ただ、物語の前半部にて多くの情報が詰め込まれハイテンポで進行したのに対し、後半部はかなりテンポを落としたため、物語が進むにつれ若干悠長に感じられた点は残念だった。物語後半の悠長さが、物語への没入を阻害し、クライマックスを少し希薄なものに変えてしまった気がする。

杉咲花さんの演技がとにかく良かった。セリフとして語られずとも、市子が様々なものを背負い、苦しめられていることが生々しく伝わってきた。


映像0.7, 音声0.6, ストーリー0.8, 俳優0.9, その他0.3
田島史也

田島史也