岩嵜修平

彼方のうたの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

彼方のうた(2023年製作の映画)
3.7
相変わらず杉田協士監督作品は初見時には理解できず、船を漕いでしまうシーンも多々あるのだけれど、それも込みの鑑賞体験として心地良い。抜けたシーンを埋めるべくパンフの「撮影稿」を読むと、他のシーンもバッサリ切ったり変えたりしていることが分かる。脳内で完成に近づく映画。

ロケ地が、TAMA映画祭ファンにはお馴染みのキノコヤ(前作もロケ地)だったり、オープン時から知ってるマルジナリア書店だったり、時々行く世田谷美術館だったり、昔から通ってた上田だったりと見覚えのある場所ばかりで、現実との接続があまりに強い鑑賞体験。なのに、登場人物とは不思議な距離が。

そもそも、キャストも野上絹代さんや端田新菜さん、深澤しほさん、そして杉田監督作すべてに出演(?)している金子岳憲さんなど小劇場ではお馴染みの方々ばかりで、演技のプロではない方の出演もあり、最近、観た中では1番、自分の現実に近い作品なのに遠く感じるのは、圧倒的に「映画」だからかも。

パンフの解説でも言及されていたが、杉田作品同士は少しずつつながっていて、全ての作品を見ていると杉田ワールドのピースが埋まっていく感覚がある。流石に、登場人物を「宇宙人れと呼ぶ解説はそのまま受け止められないが、いくつかの視点に人間ならざるものを感じてきたのも事実。創造主の視点。

人生に多大な影響を及ぼした存在の喪失を抱える人を描き続けてきた杉田監督だが、主要登場人物3人が全員、決定的な喪失を抱えていて、しかも、失われた人を全く映さないで映画として成立させたのは、かなり攻めた印象。この極めて現実に近い日常が世界(独)に届いた先で杉田監督は何を作るのだろう。
岩嵜修平

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