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52ヘルツのクジラたちの小皿のレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.5
夜勤中に原作を読み終えて、その足で劇場に足を運びました!
この作品、題名がとてもいい。
この題名から、『ザリガニが鳴くところ』みたいな海洋といった自然を舞台にした物語かと思っていたけれど、映画の宣伝を劇場で見るようになって、幼児虐待を扱った重いテーマの作品なのだと伺い知れました。
3/1公開の映画に合わせて読み始めたのだけれど、一気に読まされてしまいました。
現実的な物語展開と、小説ならではの物語展開のバランスが図られていて、リアルと虚構の狭間で揺られながら、静かなエンディングを迎えられたことは素直に嬉しいと思いました。仕事の手の空いた時間に読んでいたので泣くのを我慢できたけれど、家なら確実に泣いてるなぁ。

さて映画です。
最初の堤防のシーンで早くも泣きそうに…。
原作を読んだからこそその意味がわかって泣きそうになるのですが、読まずともそのセリフで物語のとても大切な部分で、重大な展開が待ち受けているだろうことを予感させられます。
とにかく杉咲花の迫真の演技には終始驚かされました。とても自然であるし、原作のキナコをここまで再現できることに驚異すら感じました。
当然、映画的な改変はあるし、その変更自体はとても現実に即した内容として理解もできるし、納得もできました。
ただ一点。
ラスト近いキナコと52の邂逅の場面で、原作を読んでいたら目を疑いたくなるような、耳を疑いたくなるような場面とセリフが展開します。
このシーンがなければ間違いなく今作に満点をつけていたことでしょう。
映画を観る前に原作を読むことの賛否両論はあるでしょうが、作品を映画化したいと思わせるものが原作にあるとした上で、僕は基本的に原作リスペクト派だと思います。文字を通して、自分の人生の経験や知見を通してイメージされた作品世界は、僕だけのものですし、できればその世界を他者(映画製作者)に奪われたくない思いで原作を先に読みたいと思います。
それでも、今回の『52ヘルツのクジラたち』もそうでしたが、イメージしていたキナコ像がきれいに掻き消され、すっかり杉咲花演じたキナコが僕の中で定着しています。それは、原作も映画も好きな僕にとっては願ってもないことで、こういうことこそが僕が求めている映画体験なのかもしれません。
キナコがこれからあの小さな漁村でどんなふうに生きていくのか気になるところだけれど、ただ彼女の幸せを祈りたいと思います。
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