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52ヘルツのクジラたちのmaroのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.0
2024年日本公開映画で面白かった順位:7/28
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

※以下、敬称略。
原作小説は未読だけど、重い、、、重たすぎる。。。
生きづらさを抱えた人たちを描いた話で、子持ちや要介護者が身近にいると余計に辛く感じるかもしれない。。。

この映画、とにかくキャスト全員、感情むき出しの演技に圧倒される。
まずは主人公の三島貴瑚を演じた杉咲花。
ヤングケアラーとして義父の介護に疲れ切って自殺しようとするんだけど、人生詰んだ感ある生気の欠片もない表情と、あまりの辛さに涙が溢れ出る悲壮感に観ているこっちが辛くなる。

その母親である三島由紀役の真飛聖もとんでもない役どころだ。
完全に毒親で、貴瑚がいないと生きていけないという、娘に変に依存している部分がある。
それゆえか、介護は貴瑚にすべて押しつけているのに、夫の体調が崩れると「あんたが死ねばいいのに!」と人目もはばからず、貴瑚を殴りまくるという精神的に不安定な人。
多感な時期をそんな母親のもとて過ごしたら、そりゃ貴瑚も死にたくもなるよな。。。

そんな貴瑚を気にかけ、彼女の幸せを誰よりも願う岡田安吾を演じた志尊淳も素晴らしかった。
予告の時点ではあの不自然なあごひげがやたら気になったけれど、安吾がトランスジェンダーという設定だと知って納得。
この映画の中では、おそらく一番生きづらさを抱えていたんじゃないかと思う。
それは、安吾自身の性自認について誰にも言えず、誰にも触れられたくないこととしてひとりで抱えてきたから。
だから、終盤のホテルのロビーのシーンで、それが明るみになったときの、安吾の中で何かが壊れてしまったような演技は可哀想という感情と同時に、人が壊れてしまう恐ろしさも感じた。
それだけ今の日本は性的マイノリティの人が生きづらい社会ということなのかもしれない。

そんな安吾が壊れるきっかけを作った新名主税役の宮沢氷魚もヤバい。
最初はいい人なのかなと思ったけど、実際は独占欲や支配欲の強いクソ野郎で、貴瑚をめぐって安吾に対して抱く嫉妬心には恐怖すら覚えた。

あと、貴瑚が移り住んだ海辺の街で出会う品城琴美を演じた西野七瀬!
個人的には彼女が一番印象的なんだけど、「子供を生んだせいで人生狂った」と言い、実の息子をムシ呼ばわりする上に日常的に虐待を繰り返すこれまた毒親だ。
西野七瀬ってこれまでも悪役をやっていたことはあったけど、どちらかと言えば明るい清楚なイメージが強いので、ここまで胸糞悪い役どころに驚いた。

そんなわけで、出てくる人のほとんどが心に闇を抱えていて、観れば観るほど心がすさみそうな映画。
自身の発するSOSがほとんどの人に届かないところが、特殊な周波数すぎて他の個体にその声が届かない「52ヘルツのクジラ」のようってことなんだよね。
でも、いろんな悲劇がありつつも、手を差し伸べてくれる人はいるし、新しい人生を歩みだすことができるということを伝えてくれる側面もあった。
特に、優しさは伝播するのかなと思うところもあって、安吾が貴瑚にしてくれたことを、今度は貴瑚が琴美の息子にしてあげるところに救われるような気持にもなれる。
センシティブな要素が多いけれど、とにかくキャスト全員の演技力が凄まじいので、ぜひ観てほしい映画。
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