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毒娘のmaroのレビュー・感想・評価

毒娘(2024年製作の映画)
3.0
2024年日本公開映画で面白かった順位:42/42
  ストーリー:★★☆☆☆
 キャラクター:★★☆☆☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★☆☆☆

壮絶ないじめに遭った挙句、家族を殺された主人公による復讐劇を描いた『ミスミソウ』(2017)。
同級生をいじめて殺害しながらも、その後肩身の狭い生活を余儀なくされる少年と母親を描いた『許された子供たち』(2020)。
いずれも精神的にえぐられるような想いをしたインパクト大の映画だったので、本作はそれらを作った内藤瑛亮監督の最新作ということで期待に胸を膨らませての鑑賞。
がしかし、実際に観たら個人的にはちょっと肩すかしを食らったような印象を受ける内容だった。

この映画はちーちゃん(伊礼姫奈)というやべぇやつによってひとつの家族がズタボロにされていく話だ。
ちーちゃんは萩乃(佐津川愛美)たちが引っ越してきた家の前の住人らしく、ある事件をきっかけに一家は引っ越したものの、ちーちゃんだけはその家に執着し、時々戻ってはそこに暮らす人たちにいたずらをしているという。
わからないのがその動機なんだよね。
なんでちーちゃんがその家に執着するのかが一切描かれないので、本当にただのやべぇやつにしか映らない。
せめて「ちーちゃんは家族が大好きで」とかっていう設定でもあればいいんだけど、そういうのもなし。

なお、この映画は前日譚が漫画化されているんだけど、それを読んでも先に書いた「ある事件」のいきさつがわかるだけで、ちーちゃんの人物背景についての理解が深まるわけではない。
それならもうただの快楽殺人者って設定にしてくれた方が潔かった気もするんだけど(笑)
ただ、その前日譚の方が内藤瑛亮監督作品っぽい感じがしたので、映像化するなら個人的にはそっちの方が観たかったかな。

むしろ、この映画はそんなちーちゃんに感化された萌花(植原星空)の物語と捉えた方がいいかもしれない。
ヤバいちーちゃんに目がいきがちだけど、おとなしくていい子だった萌花が、だんだんとちーちゃんのように人の道を踏み外していく過程の方が見ごたえあるかも。
萌花が抱えていた密かな鬱憤が、ちーちゃんというある意味暴力の権化によって解き放たれていくのだ。

それもこれも、元を辿れば萌花の父親(竹財輝之助)に原因があったと言ってもいい。
一見、いいパパに見えるけれど、その実態は自分勝手かつモラハラ気質であり、彼のせいで萌花の幸せな家族生活は幕を閉じざるを得なくなってしまったのだ(萩乃は父親の再婚相手)。
なので、この映画のタイトルは萌花の立場に立つならば、『毒娘』よりも『毒親』の方が自然に感じる。
逆に言えば、『毒娘』というタイトルにするなら、もっと大人を翻弄する子供を描いた方がしっくりきたし、先に挙げた前日譚の方が『毒娘』というタイトルにふさわしかったかもしれない。

そんなわけで、ホラーというよりもスリラー寄りの映画だったな。
ちーちゃんもハサミを持って大暴れはするものの、言うほどスプラッターでもないし、幽霊や怨念といった超常現象の類でもないし、特に怖いわけではないので。
この映画を観る前でも観た後でもいいので、前日譚である『ちーちゃん』(2024)は読むことをオススメしたい。
ひとつのお話としても普通に面白かった。
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