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狂ったバカンスのemilyのレビュー・感想・評価

狂ったバカンス(1962年製作の映画)
3.8
離婚して若い恋人をローマに住まわせている技師で、経営者の中年アントニオ。寄宿舎に入れてある息子に会いに行く途中、道で若者達に出くわし、ガソリンを取られ、彼らのバンガロに連れ込まれて、良いように利用されてしまう。何度も息子の元へ向かおうとするが、彼らのいたずらの数々に妨害され逆戻り。彼らの中のフランチェスカの美しさに魅せられ、どんどん惹かれていく。彼女はただからかってるだけなのだが、その美しさに翻弄され逃れられない。

典型的な若者たちの世界に放り込まれた中年おやじがもてあそばれ、その世界にどっぷりと浸ってしまう様を鑑賞する本作。若者たちの華やかな世界の夢物語、音楽とお酒におぼれ、うわべの笑顔でのふるまいと相反する残虐なアントニオに対する態度がいたたまれない。しかし彼を虜にしてしまうフランチェスかを演じるカトリーヌ・スパークの可愛さは絶品である。水着への着替えシーンや、バスタオルを巻いた姿や、短いワンピース、ボブが風に揺れてその可憐な美しさに観客も魅せられる。

すべてにおいて軽く捉えてバカンスを楽しむ彼ら。それに反して、現実と夢がごっちゃになってしまうアントニオ。自分の姿を鏡に映して、自分って行けてると思える辺りが、おじさんの悲壮感が漂う。車のアクセルを踏む足にフランチェスかの足が重なり、今まで出したことのないスピードを出し、自分の死亡の新聞記事を妄想する。現実と夢が交差していく。。

少年たちより、自意識過剰で、考え方が非常に子供である。酷いと思ってた少年たちのほうが、なぜか現実を冷酷な目でとらえていて、彼より随分大人に思えてくる。第二章に入ってからは、さらに彼のお茶目な部分がどんどんあらわになってくるのだ。

ひげを剃って、誰かに気が付いてほしくて笑顔を振りまいてみるも、だれにも気が付かれない。気づいたのはフランチェスカだけである。若者達の中で、本人は違和感なく溶け込んでいると思っていると、一気にどん底に突き落とされるように何度も裏切られる。それでも女に魅せられてしまった男は、何度も信用して、裏切られての男の嵯峨を見る。

時代を感じさせないテーマは色あせない。軽いバカンス物の中には二面性を持ち合わせており、男と女の関係性を夢物語の一時的な物の中に落とし込み、しっかり終わりを告げるのが良い。少年たちは現実への切り替えが早いが、おじさんは時間がかかる。息子の元へ向かう車の中、どんどん後ろから車に抜かれていくシーンはなんとも切ない。抜けたかった現実が、抜けたくないそれへと変わっている。

散々な目にあったけど、おじさんにはできない経験は、きっとふとした瞬間に笑顔で思い出すのであろう。バカンスの中にひときわ現実的な戦争映画の映像が良いスパイスとなり、現実と夢の対比となり後味を引く。散々な目にあったバカンスこそ後から考えればよい思い出になってたりするもんだ。
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