グラビティボルト

アイアンクローのグラビティボルトのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.4
ショーン・ダーキン監督作は初めて観るが、一見非ホラー的な題材を恐ろしく撮れるセンスがあると思う。終盤に待っているある飛躍には驚き過ぎて涙腺が弛んだ。

前評判から、傑作では?と身構えて観たけど予想外の地点へ連れて行かれる名作だった。
序盤から一貫して、よく観ないと気づかないスピードのズームが巧い。
どこに寄って行くという訳ではないんだけど、広い固定の画かと思いきや常に揺り動かされているようで神経症的な不安が終始立ち上っていた。
あと、印象的なのは各兄弟のキャリアのキーポイントになる試合が終わった後等、栄光の場面にすかさずうっすらディゾルブを掛けて、栄光と不幸の両面性を意識させる編集が巧い。
結婚式の場面、踊る末っ子のアップがゆっくり透けて、訃報を受け取りに行く車のショットの切り替わりとか、尋常ならざる残酷さだ。
その末っ子が亡くなってからのあの「階段のショット」で心霊映画的な側面を魅せてくるんだけど、これが決してただのケレンみではなく、ラスト周辺で
あの「河辺のシーン」に繋がる事でこの映画を作った意味にまで接続するのがすげぇ。
彼らの死はどうにも覆せないけど、せめて「河の向こう側」で幸せに過ごす事を祈るぐらいは出来る。
もう動かない死人を見詰めて、悼む事の意義にすら迫っているのでは。
そして、そこに親父を立ち会わせないのがあの兄弟のせめてもの反骨なのでは。
あとあの回想、開かれた車の扉、玄関の扉、屋内に広がる闇が映り、ズンズン進んでいくザック・エフロンにヒリヒリさせられるんだけど、悲劇を伝える銃声がまさかのフレーム外の地点から聞こえるのが見事。
どちらにせよ間に合わなかった。。
あと、弟の身体をテーブルに横たえてからの「回想かと思いきや非情な現実に抗う為の空想」である事を現す足元のショットで号泣。
マッチョな家庭で精神的にも肉体的にも改造されてしまった男が必死に想像力をかき集めてイメージした「あの世」。 シビれたしまんまと泣いてしまいました。