グラビティボルト

毒娘のグラビティボルトのレビュー・感想・評価

毒娘(2024年製作の映画)
3.8
ちょっと惜しいけどすげぇ好き。
モラハラ夫にどう向き合うか?という家庭内スリラーと家に寄生してくる謎の少女をどうするのか?をくっつけて105分にする豪腕、野心が好き。
しかもその野心を映画の蓄積が可能にしてる。

謎の真っ赤な「ちーちゃん」が本格的に家を襲撃する前の、夫にじんわり支配されている家庭で少しずつ母娘が心の距離を詰めていく描写の丹念さがあるからこそ、いちいち支配&抑圧しようとする夫の存在にハラハラするし、暴力で全てを終わらせようとするちーちゃんがスリルを醸成させていく。

冒頭、一軒家を引きのショットで撮った時に母親は下で家事をしていて、娘は二階で荷解きをしてる様子が映る構図が見事。
ワンショットの中に複数の動きやドラマを走らせている印象で、ダンサーの同級生の衣装を制作する事になるシーンでも、学校に行かずに家で過ごす娘と、
それを訝しげに見詰めつつ視線を走らせる客人をワンショットで捉えている。

あと、家という空間を祝福された帰る場所として魅せつつ、あの気持ち悪い父親が支配する牢獄として繋げて魅せる編集も好き。
娘が初めて佐津川愛美演じる母親にドレス制作の相談をする場面で、庭で洗濯物を干してる母に遠慮がちに歩み寄る娘というシーンを選択していて、夕食の場面でも二人はテーブルで分断された印象だったからこそ、心の距離を少しずつ詰めようとする両者の賢明な歩みが響くし、この後に完成したドレスを披露しに行く場面で、ローアングルで玄関先を撮り、
門扉のフェンス越しの構図にする事で、
娘を家(牢獄)から連れ出す母親という物語が始まるのも好き。というか巧い!

ちーちゃんが出てきてからのすったもんだ(ちーちゃんの両親と名乗る男女のキモさよ!)も好きだが、内藤瑛亮&ホームホラーと触れ込みを聞いて、ウェス・クレイヴンばりの屋内格闘を期待したんだけど、そこは惜しかった。
家が一般家庭過ぎていて、広さに欠けるのか、ズタズタの殺し合いがギリギリでアクションにならない。
シャマラン「ノック」のような素人同士のドタバタ格闘を撮るセンスが内藤瑛亮にはあるハズ。
面白かったけどまだまだ遠くに行けるハズの作家なので今後も追うよ。
黒沢清「CURE」のイメージを現代家庭に持ち込む事で見えてくる、今の気持ち悪さにも思いを馳せさせてくれた。
楽しかったです。