たく

カサンドロ リング上のドラァグクイーンのたくのレビュー・感想・評価

3.7
メキシコのルチャリブレを舞台に、実在するゲイのプロレスラーであるサウル・アルメンダスが逆境を乗り越えて自身の個性を開花させて大スターとなっていく話。メキシカンスタイルのプロレスのことを「ルチャリブレ」と呼ぶのは初めて知った。サウルが憧れるエル・サントも登場し、彼の名を受け継いだ息子(本人が演じてる!)が「眠るときもマスクを外さない」という話が出てきたけど、父エル・サントは死後もマスクを脱がずにそのまま葬儀が行われたとのことで、その徹底ぶりに驚いた。劇中のルチャドール達の試合っぷりが迫力あって、作品に説得力を与えてた。

テキサス州エルパソ出身のサウルはルチャリブレでヘタレ役のルチャドールとして活動してて、もういい加減ヘタレ役から脱却したいと思い始めてる。そんな中、同じくルチャリブレで活躍するサブリナにコーチとなってもらったことをきっかけとして、サウルが自身のゲイを個性として打ち出していこうとする展開。サウルのヘタレ役時代のリングネームが「エル・トポ」で、同名のアレハンドロ・ホドロフスキー監督の名作があるけど、意味が「モグラ」だというのは知らなかった。

サウルがテレビで偶然見かけたドラマにヒントを得て、母が昔に着てた煌びやかな衣装をリングコスチュームに仕立て、カサンドラのリングネームで生まれ変わるあたりがワクワクする。彼がゲイであることを全面に打ち出していく様子が清々しくて、前例のないことを実行する勇気に恐れ入る(試合中に2階席から転落する驚きの行動は実際にやってたらしい)。サウルとは対照的に、妻も子どももいる恋人のジェラルドが自身のゲイをひた隠しにしようとする様子が描かれるのは、多くの人はそのように行動するだろうってことだよね。

サウルが母と住むことを夢見たハート形のプールがある家が母の死と共に他人の手に渡ってしまうのが象徴的。劇中の対談番組でも言ってたけど、サウルは多くの女性に影響を受けてきて、本作でもコーチのサブリナや母親が絶大な存在として登場する。これと正反対なのがサウルの父で、終盤の息子との再会で彼がゲイである事実を受け入れないのは、こないだ観た「インスペクション」の母親と同じだったね。そういえばジェラルド役のラウル・カスティーロは「インスペクション」に教官役で出演してた。
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