『青空娘』
A Cheerful Girl
1957
大映
「どうだいこの青空。すごいじゃないか。みているだけで希望が溢れる。腹が減る」
「先生、東京にも青空あるかしら?」
「あるさ。みんなの頭の上に青空は一つずつあるものなのさ。ただみんなが見ようとしないんだ。グッと胸を張って顎を突き出せばどこにいたって見えるんだ。目をつぶったって見えるんだ」
「中西ってすげえな」
「ばっかやろう、川上の方が月給高いんだぜ」
中西は中西太選手。川上は川上哲治選手。川上哲治が現役のもう打者だった頃。時代を感じさせますね。
原作は源氏鶏太。住友不動産で経理の仕事をしながら流行作家になった。「サラリーマンもの」というジャンルを作った人。『三等重役』は後の東宝の『社長シリーズ』の元になった。
『青空娘』は1957年に集英社のアイドル雑誌『明星』に連載されラジオドラマ化され映画化にいたった。メディアミックスの先駆けかも。
登場人物は滑舌良くなおかつ美しい日本語をテキパキしゃべる。(よく見るとリップシンクしていないところもある)
物語の主人公は地方の高校を卒業したばかりの小野有子(若尾文子)。祖母と暮らしている。今際の際に祖母からお前は父親(信欣三)が不倫相手との間に産まれた娘だと告げる。
有子は上京し高級住宅地に立つ父の家にくる。義母達子(沢村貞子)は有子を女中扱いして物置に住まわせる。
彼女の味方は女中のミヤコ蝶々と出入りの魚屋の南都雄二。この二人の漫才を見られるのも楽しい。
この物語は継子いじめの物語。『落窪物語』とか『シンデレラ』とか『小公女』を思わせる。主人公はどんなにいじめられても明るく跳ね返していく。意地悪な兄や姉を負かし弟を味方につける。痛快な話だ。
有子をめぐる元高校の恩師(菅原謙次)、大企業の御曹司(川崎敬三)の恋の鞘当ても正々堂々として爽やか。
あー面白い。溌剌とした若尾文子(当時24歳)の魅力(細いウェストに二の腕!)スマートな男性陣のカッコ良さ。意地悪の中にも夫への愛がにじむ沢村貞子さんの名演技。増村保造の長編第二作は見事な青春コメディだ。