ノラネコの呑んで観るシネマ

スリープのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

スリープ(2022年製作の映画)
4.3
ポン・ジュノの助監督だったユ・ジェソンの監督デビュー作。
これがまた一筋縄ではいかない、異色のスリラーだ。
妊婦のチョン・ユミの夫で、俳優のイ・ソンギュンが夢遊病の様な症状に陥り、次第に常軌を逸してくる。
薬は効かず、迷信深い妻の母は霊的なものを疑い、巫女を連れて来るのだが、夫の中に男の霊がいると言われる。
やがて夫に憑いているモノが、赤ん坊を殺そうとしているという考えに取り憑かれた妻も、狂気に堕ちてゆく。
これ、夫が俳優と言うのがポイントで、彼を筆頭に登場人物全員が、所謂“信頼出来ない語り手”だ。
だから物語に一応の結論は出るのだが、最終的に誰が言っていたことが正しいのか、誰が正気を保っていて、誰が嘘をついていたのか、判断がつかない。
同じ理由で、そもそも夫の夢遊病は単なる病気だったのか、霊障だったのかもウヤムヤなままだ。
それゆえに話のオチを素直に受け入れていいのか、観客はケムに巻かれモヤモヤしたまま放り出される。
物語の殆どがマンションの中で展開し、低予算なのは明らかだが、さすがクセの強い作風は師匠譲りで、なかなかに面白い。
小粒だがピリリと辛い、スパイスの効いた佳作。