元空手部

傷物語-こよみヴァンプ-の元空手部のレビュー・感想・評価

傷物語-こよみヴァンプ-(2024年製作の映画)
4.0
体の一部のアップのショットの描かれ方が特徴的であったように思えた。特に唇や太ももの描写において、カメラワークは連続性を重視していないためある人物に位置するパーツとしてというより、パーツのアップそれ自体が顔や全体に代わる主体となるような描写のされ方をしている。この点において、ある統一的な主体の存在を揺るがす、複製が絶えず行われていたと言っても良い。食人描写やグロテスクな戦闘描写もそれに該当していると見て良いだろう。
これは、劇中掲げられる複数の日本国旗についても同様だ。国旗のイメージが我々の想定するような力を持つのはそれが工業製品として意識されていないときに限る。つまりは、適切な方法で適切な位置に示されている時であると言えるが、これは複数に等閑的に並べられた場合効力を発揮しない。
また、身体と国民的なアイデンティティを同時に破壊したこの演出法がどう言った意味をもたらすかが明言されていないように思えた。さらに繰り返し挿入されるnoirやRougeといった字幕は一見、何かを物象化するためのモチーフであるように思えるが執拗すぎるあまり定義づけを脱してしまっている。
これらをポストモダン的なアニメーション、と言えば聞こえは良いのだろう。本作では博愛も恋愛も嫌悪も暴力も、全てが宙吊りのまま提示されている。統御が働かない点で欲望とも関連付けられる終わらない増殖の気味悪さを感じた。

大島渚の絞死刑と安藤忠雄の光の教会から引用があった。両者に共通するのは偶像を自然に回帰させる試みだ。
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