あらすじから分かる通り、非常にエッジの効いた風刺コメディである。と同時に、虚構と現実の狭間で揺れ動くアイデンティティを、巧みな脚本と演技によって描いたドラマとしても至高。特に家族の物語としても非常に引き込まれる。風刺だけで終わらせないで、そこにいるキャラクターに命を吹き込むことで、更に風刺要素もドラマ要素も、そして社会的メッセージもパワフルなものになっているのだ。
多様性が重要視される世の中で常に問われるステレオタイプの問題点。なぜステレオタイプが問題なのか。意外とちゃんと言葉にして語るとなると難しい問題に対し、この映画は見事に映画としてだけでなく言葉としても答えを出している。その上で、現実でその偏見を乗り越えることがどれだけ困難かを描いているのだ。ラストはどこかニューシネマっぽさもありつつ、それでも前を見て生きていく主人公たちの強さも感じられた。
今年のアカデミー賞は強豪揃いだが、そこに埋もれないほど強烈な作品。日本では配信スルーになってしまったのは少し残念だが、ある意味では手軽に観れるという部分も。Amazon Primeに入っている人はぜひ観て欲しい作品。