fujisan

アメリカン・フィクションのfujisanのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.7
『この小説には、”黒人らしさ”が足りないんだ』

小粒ながら、今年度アカデミー賞で作品賞はじめ5部門でノミネートされている本作。

「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」を撮ったライアン・ジョンソン監督が2019年に設立したT-STREET制作による作品で、ダニエル・クレイグの「ナイブズ・アウト」やNETFLIX向けで評判が良かった「フェア・プレー」などと同じく、現代風刺の観点を持ったキレの良い作品になっていました。
https://eiga.com/news/20190929/8/

主演はジェフリー・ライト。クレイグボンドシリーズでジェームズ・ボンドのCIAの盟友フェリックス・ライター役を演じていたのが印象的な方で、本作では兄弟役のスターリング・K・ブラウンとともにアカデミー賞ノミネートされています。



本作は風刺コメディで、『一般的な黒人のイメージ』によって、著作が評価されない黒人小説家の物語。

黒人は粗暴、貧困、シングルマザー、警官に殴られる、刑務所に入れられる、ラップが好きで言葉遣いが乱暴、最後は警官に撃たれて死ぬ、みたいな先入観で常に見られてるけど、そうじゃないかんね?っていうのがテーマになっていました。

まず、ジャケ写(ポスタービジュアル)がよく出来ていて、ジェフリー・ライト演じるモンクはお洒落なジャケットを着ているのですが、そこに黄色のラインで黒人ラッパーの服装が描かれています。キャップを後ろ向きに被り、チェーンのぶっといネックレスに巨大な指輪。本人と周りから見たギャップが表現されていますね。

モンクは、頑固でコミュニケーション下手ではあるものの、文学にも精通しており、自分以外の兄弟はみな医者っていうハイスペックな家柄。作家としても優れているものの、周りが期待する黒人イメージの小説とはかけ離れているため、全く評価されていません。

でもこれが単に可哀想な話にならないのは、それが時に周りに対して攻撃的な物言いになったり、皮肉ばかり言って周りとちゃんと向き合わないキャラクタ-だからで、あまり共感できないキャラなだけに、過酷な運命が待つブラックコメディとして面白い作品になっていると思います。



映画では、母の認知症などでお金が必要になったモンクが、半ばヤケになって匿名で書いた『お前らが考えてる黒人イメージ100%の小説』がバカ売れし、困った本人が”黒人らしい黒人になっていく”という風刺コメディ。

アンコンシャス・バイアス(人々が無意識にもっている偏見)がテーマになっていて、私も最近企業研修を受ける機会が増えているので、流行りのテーマなのかなと思っています。

アンコンシャス・バイアスは、たとえば女性だからお酒をついで当然、とか、深夜残業は男性が担当するべき、などの無意識の思い込みを学ぶのですが、本作はこれを人種っていうもう一つ大きな枠で捉えた話。研修コンテンツを観るよりもよっぽど面白くて分かりやすいです😅

一昔前の風刺漫画では、チビで出っ歯でカメラをぶら下げ、目は横棒一本の線で書かれた日本人が描かれていたわけで、こういう偏見も時代とともに薄れると思いますが、海外で活躍する日本人スポーツ選手がいまだ差別的なゼスチャーを受けているわけで、時間も掛かるんでしょうね・・
https://www.football-zone.net/archives/246779

映画でも、『求めてるなら、それを書けばヒットするじゃない』って感じで、『周りが求めている黒人のイメージ』をリサーチし、無感情にそれを書くことでヒット作を書いている黒人女性作家も登場していて、リアルな問題の根深さを感じました。



ということで、ひねりの効いた終わり方も含めて、鋭い切り口でよく出来た作品だったな、という印象です。

周りが大作揃いの今年のアカデミー賞なので受賞は難しいかもしれませんが、ゲイであることで家族との関係に悩む兄弟役のスターリング・K・ブラウンがとても良かったので、助演男優賞なら獲れるのでは?と思っています。
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