ミヤザキタケル

異人たちのミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.9
過去に交通事故で他界した両親と再会するという、ともすれば非現実のファンタジーや、その謎を解き明かしたくなるミステリーなどの類いになりかねない題材であるものの、そういった方向へと舵を切ることはなく、終始現実的で、繊細で、穏やかながらも胸締め付けられる人間ドラマがそこにはあった。

登場人物も場も最小限に限られているにも関わらず、主人公の心のゆらめきがさまざまな感情や情景を見せつけ、目にする者の心をあちらこちらへと誘い続ける。気付けば他界した両親との再会、その必然性にも合点がいき、本作の世界観を何の違和感もなく受け入れられている自分がいた。

過去に囚われながら生き続けるのは辛い。できることなら、折り合いをつけ、地に足をつけ、今を、この先の未来を生きていきたいもの。自らの過去と向き合い、愛する者とめぐり逢い、徐々に変化していく男の姿を目の当たりにしながら、自らの実人生についてをも考える時間を得た。

最終的に彼が行き着く果てに直面した時、どう受け止めるべきなのか分からず呆然としてしまったのだが、見終えた後のこの余韻、嫌いじゃない。