矢吹

Hereの矢吹のレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.2
そこにもここにも、わたしは存在していて、存在していない。全ての名前がわからなくなるように全ての境界線がぼやけていって、全てと溶け合う。
流動的に、万物とも一つになれる。
サイレン。が聞こえる。

どうしてこんなやり方に辿り着けるのか。
全く見当もつかない。そりゃそうなんだけど。
こんな道あったんだ。って割と久々になったかも、映画劇として。

そもそもオープニングから、風と、木々をじっくり映してはいたけれど。
最後の2人のシーンで、今まで以上にやたら挿入されて、そもそも森林を調査しているわけだから、違和感ももちろんなく、その数々の自然の映像によってそれだけで、太古を思えるわけですよ。そこに、最初に陸上に進出した植物としての苔。ヨーロッパを走った列車が最初についた駅。が再び現れて、さらに歴史が存在感を増してくるし、先を急いでいたはずの、我々が待ち望んだ予定を彼と彼女と一緒に先延ばしにしちゃったりもして、それもまた2人の時間を膨らませる。
太古、歴史、予定、過去、未来、の全てが詰まった現在を2人で歩く山道。
ついに2人の靴が並ぶ。
その夜に彼が、休暇の前に食材を使い切るために作っていたはずのスープを、改めて山菜かなんかで新しく作るシーンも趣が深すぎますし。
次の日が来て、振り返って、さっきまでのあの半日ぐらいが、とてつもなく大きな永遠みたいに長く感じられてしまったんですよ。
なんならあの時間はまだ続いている。
劇中での、あの2人の生のやりとりなんて、意地汚く言ってしまえば、30分あるかないか、もっと少ない可能性もあるぐらいでしたかね、その時間が、あんなやり方で、恐ろしく大切な、世界に許された2人というか、この世の全てはこの2人のための脈動だったかのようでもあり、またここから生命の歴史が続いてく、でかい波のなかに確かにいるようでありながら、世界を、万物を丸ごと感じることのできる時間を味わえたというか、捉えさせられた、見せてもらえたっていう。
そんな気分。くらっちまった。
そしてこういった時間は、今もここにある。彼らだけに起こる偶然でも必然でも決してなく、誰にでも許されているわけです。

どうしても、惹きのあるさ、地元の友人に再会する予定に対して、その未来を夢見てしまった僕も、浅はかなんだよな。
安易に現在を蔑ろにした時点で僕の負けだった。
またやられたよ、この人。なんたる巧妙。
矢吹

矢吹