たにたに

バティモン5 望まれざる者のたにたにのネタバレレビュー・内容・結末

バティモン5 望まれざる者(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

✨2024年31本目✨

昨年から欧州各国では移民排斥の動きが活発化してきている。
今作のバティモン5というのは、パリ郊外にある"バティモン"5号棟という建物に焦点を当てており、いわゆるバンリュー(フランス語で郊外)の公営団地であるここには、移民2世を中心に低所得者層が暮らしている。

フランスで極右政党が台頭してきている昨今、ラジ・リ監督の問題提起は"移民=犯罪の温床"という偏見を今一度踏みとどまって問いただすことにあるのではないか。

今作では、
治安維持のために団地を解体しようとする市長の思惑と、それに対抗する団地の住人たちという対立構造が映画的にスリリングに描かれる。その中で、一人の青年の怒りが頂点に達し、暴動に走ってしまうという筋書きは様々な映画で何度も語られてきたことである。
しかし、これがリアルであり、未だこれが解決せず、何度も繰り返されていることを我々は理解しなければならない。

新任市長の描き方は、移民排斥主義的でわかりやすく悪に描かれており多少の違和感はあるが、放置されてきたバンリューの問題を前に進めようと解消する使命感が彼自身を苦しめていることは憂慮せねばならない。
市長という職務を受け入れたのだから、正当性を持って対処しなければならないという意見はごもっともなのだが、彼を市長に選任した議会へ問題意識を向かねばならないことも確かだ。

また、彼は市民の声に耳を傾ける余裕がないし、団地への視察の際に内部の荒れ果てた状況を見て恐怖と不安に駆り立てられた表情をしていた。これに対して移民の声を押し上げるはずの副市長も、自身の処遇を危惧して忖度をするという始末であった。

それと同じく、市長邸で暴れ回るブラズの行為も自身の怒りを解放したいが故の短期的な解決策でしかない。


これを解決するには"話し合い"が重要だ。
そんなことは分かっているのだけれども、短期的な解決策はどうしても強制的な区別へと収束する。希望として主人公アビーは描かれており、女性警官に対して「あなたもフランス人よね?次の市長は私かもよ?」という発言は挑発的でもありながらそれが現実化する世の中に変わることを期待したくもなる。アビーはどちらの立場にも立てる人間として描かれている。

団地建て替え計画の看板を燃やすことでしか抵抗ができないのでは、いつまで経っても進展しないのでしょうね。しかし、ここの2人のシーンはとても素敵でありました。
1人で立ち向かうのではなく、誰かと"共に"声を上げることが大切なのだと述べているようです。
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