efn

アンダーグラウンド 4K デジタルリマスター版のefnのレビュー・感想・評価

4.2
 ユーゴの風刺映画だし銃器や民族を模したものが色々出てくるんだろうな、と思い構えていたら開始三十分でフェリーニとアンゲロプロスが出てきて、そのあとはただただ圧倒されっぱなしだった。すごすぎる。
 基本的にはユーゴの民衆がチトー時代を懐かしむ、という危うい映画なんだけど、その表し方がめちゃくちゃ面白い。まずWW2の間に地下に閉じ込められたせいで上で起こっているソ連邦のあれやこれやをまったく知らないというのがいい。この断絶のおかげで説明しなくても地下にチトー時代の空間が維持されていることがわかるし、地上で起こっていることは説明しなくてもわかる。というか、外にでたあとの銃撃戦や地下に帰りたがる官僚を見れば容易に察しがつく。風刺というのは得てして台詞による説明が多くなりがちだけど、これは物語と舞台がそのまま視覚要素になっている。
 またチトー時代の表象が吹奏楽だったり酒だったりと、とにかく賑やか。回転椅子に載ったトランペットの一団がまわりながらがーがーやって、その他有象無象が音に合わせたりあわせなかったりしながらグラスをあおりまくる。その雑踏のなかにふっと現れるウェディングドレスの華やかなこと。内戦以後(最期の三十分に登場する)の人々がチトー時代をどう観ているかが付随する感情と共に画面に染み付いている。
 劇中劇の間男を殺す流れを独軍の指揮官の殺害につなげたり、婚礼から抜け出した父子がソ連の宣伝映画現場をぶち壊すあたりなんかは演劇の即物性=生身の肉体によるごり押し間があって面白かった。
 あと単なる模倣になっていないのもポイントが高い。賑わいはフェリーニ(特にそして船は行くの影響は顕著)、フィルムの長さはアンゲロプロスみたいだけど、それがとってつけたようなものではなく、その国の風土に合わせてアレンジされている。
 風刺にこだわりすぎず、かといってたかが外れることもない。映画としても誠実で素晴らしい作品だった。
efn

efn