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大理石の男のefnのレビュー・感想・評価

大理石の男(1977年製作の映画)
4.1
 全体主義映画の傑作。もうこの作品がかつてあった全体主義社会の存在証明になっている。
 メタな状況を含めるとワイダを取巻く映画の公開を妨害する勢力(現実)、ワルシャワでフィルムを差し押さえたワルシャワの映画学校(77年)、ビルクートを抹殺した秘密警察諸々(50年代)の三段構造になっていて、89年に共産党がなくなるまでは文字通り生ものだった。
 今となっては77年と50年代を振り返る教材と化してしまったが、それでも人を簡単に消し去ってしまうシステムや検閲の恐ろしさを知る事はできる。本来隣人であるべき労働者を労働英雄に仕立て上げるためにおこなわれる数々の演出、相棒の突然の蒸発、不正を訴えるビルクートの声を聴きたくない、とばかりに歌われる労働歌。(友情のために演説を強行する姿はまさに大理石の男)
 さらに、そういった当局と労働者によって黙殺された歴史を掘り起こす行為さえも封じられてしまう。オーウェルは全体主義は過去の改ざんによって自らの正当性を永久ものとすると考えたが、劇中のフィルム接収はまさにそのことを表している。
 ソ連邦が崩壊した今となっては賞味期限が切れた感はある。ビルクートの息子がグダニスク造船所にいた意味も伝わり辛い。しかし、全体主義の演出と検閲をこれほどの迫力で、まとまりのあるものとして仕上げた作品は他にない。しかも、これは東側の当事者がつくりあげた作品だ。これを超えるものは今後も世に出ないだろう。
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