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ほかげのefnのネタバレレビュー・内容・結末

ほかげ(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

 孤児の社会的立ち居地を巧みに物語に落としこんでいる。娼婦と復員兵の擬似家族、内地に帰還した兵隊のお礼参りのお手伝い。最初に義父となった復員兵の弱さ、心の傷が上官への復讐譚の動機付けになる構成もうまい。(因果関係はない)
 事態がすべて好転しないことにも感心した。母を演じた娼婦は性病にやられ、父を担った復員兵は銃声に心を抉られ発狂する。南方を生き抜いた兵隊のお礼周りの結果は言うまでもない。(内地の星に惚けて語り合いながらもカメラが空に向くことはない。意志と記憶は星よりも戦友に割かれているのだから当然だ)
 子どもだって媚びない。擬似家族と動物園ごっこを楽しんでも、その晩には暴れる義父を銃で制圧してしまう。お礼参りでも素早く真意を理解し最期の引き金を引こうとする。そうでもしないと生きていくことはできない。南方で魂を打ち砕かれ、暴力で自信を守ろうとする人間を抱きしめてあやすことなど不可能なのだ。
 市民にとって終戦とは爆弾が降ってこない程度の意味しかない。もちろん敵が攻めてこないことも重要ではあるが、だからといって焼け野原に草花が芽吹き食料が空から降ってくるわけではない。復員した男たちは目をぎらつかせて食料を奪い、廃墟では焼け出された女が身体を売り、親を殺された子が銃で大人を威嚇しなければならない。
 このような状況は情でどうにかなるものではない。創作上の都合で書き換えただけでも、それは嘘になってしまう。現に登場人物はまともな結末を迎えることができない。
 しかし、それは悪いことではない。戦時の記憶と戦い、戦後の貧困や暴力と戦う姿はそれだけでも強烈なのだ。大日本帝国に虐げられた状況、弱者としての立場に甘んじることなく、弱肉強食を通して時代を捉えたからこそ可能になっている。
 私は本作以上に戦後と向き合った作品を見たことがない。間違いなく傑作。
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