Dick

あんのことのDickのネタバレレビュー・内容・結末

あんのこと(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

1.はじめに:入江悠監督との相性

❶入江悠の長編が、名古屋で初めて公開されたのは、2009年の『SR サイタマノラッパー(2008)』で、それ以降、インディーズとメジャー合わせ本作を含め14本が劇場公開されている。インディーズは全てCSで公開。ほぼ1年に1本のペースで順調と言える。

❷その全てをリアルタイムで観ているが、マイ評価は、最高の100点満点から最低の20点まであり、バラツキが大きい。全体の相性は「並」である。
【長編】
①『あんのこと(2024)』監督脚本(114分)、初公開日:2024.06/2024.06鑑賞/60点
②『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎(2023)』監督(99分)、初公開日: 2023.03/2023.04鑑賞/40点
③『シュシュシュの娘(2021)』監督製作脚本編集(88分)、初公開日: 2021.08/2021.08.鑑賞/70点
④『AI崩壊(2020)』監督脚本(131分)、初公開日: 2020.01/2020.02鑑賞/80点
⑤『ギャングース(2018)』監督脚本(120分)、初公開日: 2018.11/2018.12鑑賞/80点
⑥『ビジランテ(2017)』監督脚本(125分)、初公開日: 2017.12/2017.12.鑑賞/50点
⑦『22年目の告白-私が殺人犯です-(2017)』監督脚本(117分)、初公開日: 2017.06/2017.06鑑賞/100点
(マイベスト)
⑧『太陽(2015)』監督脚本(129分)、2016.04/2016.04鑑賞/20点(マイワースト)
⑨『ジョーカー・ゲーム(2014)』監督(107分)、2015.01/2015.02.鑑賞/50点
⑩『日々ロック(2014)』監督脚本(110分)、初公開日: 2014.11/2014.11鑑賞/40点
⑪『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者(2012)』監督プロデューサー脚本編集(110分)、初公開日: 2012.04/2012.05.鑑賞/85点
⑫『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ(2011)』監督プロデューサー脚本編集(89分)、初公開日: 2011.04/2011.05鑑賞/70点
⑬『SR サイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~(2010)』監督製作プロデューサー脚本(95分)、初公開日: 2010.06/2010.07鑑賞/85点
⑭『SR サイタマノラッパー(2008)』監督脚本(80分)、初公開日: 2009.03/2009.08鑑賞/70点
【名古屋未公開】
『ジャポニカ・ウイルス2006』監督プロデュース脚本(94分)、初公開日: 2006/09■名古屋未公開

2.マイレビュー◆◆◆ネタバレ注意】

❶相性:中。
★一人では生きられない。

❷時代: 2019年~2020年頃。

❸舞台:東京・赤羽他。

❹主な登場人物
①香川杏(河合優実、23歳):主人公。21歳。ホステスの母と足の悪い祖母と3人で団地暮らし。部屋はまるでゴミ屋敷。父のことは言及なし。幼少期から母の虐待を受け、小学4年で不登校となり、12歳からは生活費を稼ぐため母に売春を強いられる過酷な人生を送ってきた。母からは「ママ」と呼ばれている。16歳頃、売春客から覚醒剤を打たれ、中毒になってしまう。取締りで初めて逮捕され、多々羅刑事と桐野記者に出会ったことから更生を決意し、介護の仕事を得て夜間中学に通い始める。しかしコロナ禍によって絶望の淵に立たされる。
②多々羅保(佐藤二朗、54歳):人情に厚い型破りの刑事。薬物更生者の自助グループ「サルベージ赤羽」を運営していて杏の更生に尽力する。下記の桐野とは親友だが、桐野が書いた被害者の証言つきの暴露記事により逮捕される。容疑は、多々羅がサルベージに通っていた女性に性交を強制したというもの。
③桐野達樹(稲垣吾郎、50歳):更生施設を取材する週刊誌記者。多々羅と親交があるが、3年前から多々羅とサルベージ赤羽をめぐる疑惑を調査している。
④香川春海(河井青葉、42歳):杏の母。ホステス。
⑤香川恵美子(広岡由里子、58歳):足が不自由な杏の祖母。
⑥原康太(小林勝也、80歳):杏を助けようとする施設の入居者。
⑦三隅紗良(早見あかり、28歳):杏が身を寄せていたシェルターの隣人で、幼い赤ん坊の母。

❺考察
①冒頭に示されたテロップ:「この映画は実際にあった事件に基づいている」が、あり得ることだと思った。
②河合優実が演じた主人公・杏に起きた不幸な出来事は、今現在も誰かに起きているかも知れないと思った。彼女にはそれだけの説得力があった。
★公式サイトやチラシ及びKINENOTEやFilmarks等の映画専門サイトでは、21歳の主人公を「少女」と呼んでいるが不自然であり女性蔑視と思う。21歳の男性を「少年」とは呼ばないだろう。何十年も昔のこと、女子社員を「女の子」と呼んでいた時代があった。そんな悪習が今でも残っているのだろうか? 因みに、児童福祉法では少女は、「小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者」、少年法では「20歳に満たない者」となっている。
③杏の21歳という年齢だけを考えると、さっさと毒親とは縁を切って自立すればよいではないかと思えるが、幼年時代から飼いならされた状態に置かれれば、まともな判断が出来なくなるのだと思う。そんな例は少ないが、時々報道されるマスコミ情報からは世界中にあることが分かる。
★これに近い例として、「ゆでガエル理論」をあげておこう。カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて徐々に温度を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう。
④稲垣吾郎が演じた週刊誌記者の桐野が、「会社の方針、ジャーナリストの良心、友人との信義」のトリレンマに悩む姿は理解できる。
⑤一方、佐藤二朗が演じた多々羅刑事のプライベート面が殆ど描かれていないので、サルベージ赤羽の女性メンバーへのセクハラ性交強要は、唐突で素直に納得出来なかった。本人は否定も肯定も反省もしていないので事実か否かは不明。意外性を狙ったのかも知れないが、多々羅に裏があったのなら伏線を敷くべきだったと思う。

❻まとめ
①周囲の人たちの支援で、更生の道を歩き始めた杏だったが、コロナ禍が原因で、梯子が外されてしまう。
我々観客からみれば、せっかくここまで来たのだから、あと少し頑張って欲しいと思うのが自然だが、本人にとっては限界を超えていたのだろう。
②コロナさえなければ、杏の未来には希望があった可能性が大きい。でもそれを願うのは不可抗力というもの。
③杏は、縁を切っていた覚せい剤を打ち、ベランダから身を投げる。以前のように、何もかも忘れてハイになることもできた筈だが、そうはしなかった。今の杏は以前の杏とは別人になっていたのだ。
④自分の意志で、自分の未来を決めた杏は立派だと思う。杏の心の声は、きっちり届いた。
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