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夜明けのすべてのDickのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

1.はじめに:三宅唱との相性

❶三宅唱の長編監督作品中、劇場公開されたものは、本作を含め5本ある。
❷内、初期の2本を除く全作を観ているが、相性は良好と言える。
①2012年 Playback
②2014年 THE COCKPIT(Doc)
③2018年 きみの鳥はうたえる ♥2018.09鑑賞60点
④2022年 ケイコ 目を澄ませて ♥2022.12鑑賞85点
⑤2024年 夜明けのすべて ♥2024.02鑑賞85点


2.マイレビュー:◆◆◆ネタバレ注意

❶相性:上。
★相手を思いやる気持ちが、お互いを成長させる。
★説明が少ないので、想像力でカバーしないと分かりづらい面がある。

➋時代:2018年頃から幕が開き、2023年12月~2024年3月頃(登場する履歴書の日付等から)がメインとなる。

❸舞台:東京都区内と近郊の田舎。

❹主な登場人物
①藤沢美紗(藤沢さん)(上白石萌音、25歳):PMS(月経前症候群)で生理の数日前に怒りを抑えられない症状を抱えている。それが原因で、退職し、3年前から栗田科学で働いている。
②山添孝俊(山添くん)(松村北斗、28歳):パニック障害が原因で、最近栗田科学に転職してきた社員。
③栗田和夫(光石研、62歳):社員数10名程の、教育用プラネタリウムを取り扱う小企業、栗田科学の社長。共同経営者だった弟が20年前に自殺したことで、人に優しい会社を心がけている。グリーフケアの会に参加している。
④辻本憲彦(渋川清彦、49歳):山添くんの前の会社の上司。姉が過労死したことで責任を感じている。グリーフケアの会に参加していて、その繋がりで、栗田和夫とも面識がある。
⑤藤沢倫子(りょう、50歳):藤沢さんの母。田舎に一人住まい。パーキンソン病で歩くのが不自由になっている。
⑥大島千尋(芋生悠、26歳)山添くんの恋人。ロンドンへの転勤が決まる。
⑦岩田真奈美(藤間爽子、29歳):藤沢さんの友人。
⑧住川雅代(久保田磨希、50歳):栗田科学の経理担当副社長。子供が下記⑭の中学生の一人。
⑨平西謙介(足立智充):栗田科学の営業担当。
⑩鈴木譲(大津慎伍):栗田科学のデザイン担当。
⑪鮫島博(矢崎まなぶ):栗田科学の開発担当。
⑫猫田欣一(中村シユン):栗田科学の技術担当。
⑬栗田康夫(斉藤陽一郎、53歳):栗田和夫の弟。20年前に自殺)
⑭他に栗田科学のドキュメンタリーを制作する中学生2名。
⑮そしてカメオとして:丘みつ子、山野海。

❺考察とまとめ:
①藤沢さんが苦しんでいる「PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)」のことは、本作で初めて知った。
②山添くんの「パニック障害(Panic Disorder)」のことは、名前を知っている程度だった。
③両者共、原因はまだ明確になっていないそうだが、共通の要因の一つに「ストレス」が挙げられている。
④昔から「風邪は万病のもと」と言われているが、現代では「ストレスは万病のもと」も加わっている。
★現代人は大人から子供まで、受験勉強、出世競争、人間関係、家計のやりくり、子育て、等々、様々なストレスにさらされている。自分なりの対処法を考えないと生きていけない世の中になっている。
⑤藤沢さんと山添くんが、再就職した栗田科学は、社員数10名程の小さな会社だが、色んな傷や悩みを背負った人が、家族のように、相手を思いやり、協力し合っている。
★言わば「ストレズ緩和型集団」である。これと反対なのが、大部分の会社の「成果重視・ストレス容認型集団」。
★こんな会社が実際にあるかどうかは分からないが、本作の栗田科学は赤字にならず、存続しているので、理想のモデルとして描かれているのだろう。
⑥藤沢さんが栗田科学に再就職した経緯は示されない。一方、山添くんに関しては、上司だった辻本が、グリーフケアの会で知り合った栗田社長を見込んで依頼したものだった。
★辻本も栗田も、かけがえのない家族を亡くして、心の重荷を抱えている点で共通点がある。
⑦藤沢さんと山添くんは、お互いの持病を知って理解し、職場の仲間に支えられて、信頼関係を築いていく。
⑧そして、ラスト。藤沢さんは、母の世話をするために地元に帰って就職する道を選ぶ。山添くんは栗田科学で働く道を選ぶ。
★山添くんが、元の会社に戻らずに栗田科学に残ることを辻本に伝える。それを聞いた辻本の目に涙が・・・。気にかけていた山添くんが、持病と付き合いながら自分の道を見出したのだ。本作のマイベストシーンだ。
★新たな夜明けの始まりである。
★皆が納得する選択に、我々観客も納得する。(拍手)
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