このレビューはネタバレを含みます
（注）「52ヘルツのクジラ」とは：
①他の仲間たちには聴こえない高い周波数で鳴く世界で1頭だけのクジラのこと（公式サイト）。
②正体不明の種の鯨の個体で、非常に珍しい52ヘルツの周波数で鳴く。この鯨はこの周波数で鳴く世界で唯一の個体であり、その鳴き声は1980年代からさまざまな場所で定期的に検出されてきた。この鯨が生存しており、成熟していることからして、この鯨は健康である。その独特な呼び声に類するものは他になく、その源はたったひとりである。それゆえに、この個体は「世界でもっとも孤独な鯨」と呼ばれている。シロナガスクジラは10-39ヘルツで鳴く。人間の可聴周波数は20ヘルツ～20キロヘルツなので、大抵の鯨の声は聞こえる（Wikipedia）。
【マイレビュー：◆◆◆ネタバレ注意】
❶相性：中。
★描き方が平面的で、心に響かない。乗れない。
❷時代：現代。現在を起点に3年前、2年前、1年前の３年間が描かれる。
❸舞台：東京都区内、大分市、他。
❹主な登場人物
①三島貴瑚（みしま・きこ）（キナコ）（杉咲花、26歳）：主人公。妾だった母親が再婚後、母や再婚相手から虐待を受けて育った。高校卒業時に義父の介護をすることになるが義父からの暴言暴力で絶望の淵に立たされる。そんな状況を救ってくれたのが、親友の美晴とアンさんだった。上京して勤務先の御曹司に見染められるが、破局して、大分戻り、少年と出会う。
②岡田安吾（おかだ・あんご）（アンさん）（志尊淳、28歳）：キナコの声なきＳＯＳを聴き、救い出そうとするトランスジェンダー男性。塾講師。本名は岡田杏子。
③新名主税（にいな・ちから）（宮沢氷魚、29歳）：キナコの初めての恋人となる会社の役員。社長の息子で専務。
④牧岡美晴（まきおか・みはる）（小野花梨、25歳）：キナコの高校時代からの親友。アンさんと同じ塾の講師。自身も毒親を持ち、キナコに強いシンパシーを持つ。
⑤少年（桑名桃李、10歳）：母親に虐待され声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれる少年。キナコは「52」と呼ぶ。キナコが保護する。ラストで名前が「愛（いとし）」と明かされる。
⑥品城琴美（しなぎ・ことみ）（西野七瀬、29歳）：少年の母。高校を中退して出産。
⑦村中真帆（むらなか・まほろ）（金子大地、27歳）：キナコが引っ越してきたキナコの祖母の旧家の修理を手掛け友人となる。琴美と同じ中学出身。
⑧三島由紀（みしま・ゆき）（真飛聖、47歳）：キナコの母。妾だった自分の母を憎んでいたが、自分も同じ道を歩む。再婚後、相手との間に息子が生まれ、キナコを虐待する毒親と化す。
⑨岡田典子（おかだ・のりこ）（余 貴美子、67歳）：アンさんの母。トランスジェンダーを受け入れられない。
⑩村中サチエ（むらなか・さちえ）（倍賞美津子、77歳）：真帆の祖母やキナコの祖母や品城家の家庭の事情等を知っている情報通。
❺考察
①タイトルの「52ヘルツのクジラ」の意味を初めて知った。
★今回の収穫の一つである。
②「孤独なクジラ」は世界で1頭だけだが、人間世界の「孤独な人」は沢山いる。
★ただ、世界で1頭しかいないクジラを「クジラたち」として、複数の人間に当てはめる設定には疑問が残る。
②本作には、人間世界に於ける3人の「52ヘルツのクジラ」が登場する。
ⓐ三島貴瑚（キナコ）（杉咲花）
ⓑ岡田安吾（アンさん）（志尊淳）
ⓒ少年（桑名桃李）
③母の虐待と、介護を強いられた義父の暴言暴力で絶望の淵に立たされていたキナコは、親友の美晴（小野花梨）とアンさんに救われる。キナコはアンさんと共に上京して働き始めるが、社長の御曹司・新名主税（宮沢氷魚）と恋人関係になるも、御曹司が政略結婚することになる。キナコの身を心配したアンさんは、婚約者にキナコの存在を知らせる文書を送り破綻させるが、それが元で、アンさんがトランスジェンダーであることが分かり、アンさんは自殺する。キナコは御曹司と決別し、かって祖母と暮らしたことのある大分で新生活を始める。そこで虐待を受けている少年と知り合い、美晴と協力して少年を助ける。
❻まとめ
①児童虐待・毒親・DV・ヤングケアラー・トランスジェンダー等の社会的問題を背景に、3人の孤独な人たちの苦しみ・悲しみ・協力・再生が描かれている。
②あらすじを文章にすると納得するが、そこにはロジカルに辻褄をあわせようとする書き手の意志が加わっている為で、映像を観ると、描き方が平面的で、心に響かない。
③原作未読なので、比較は出来ないが、映画としては成功していないと思う。
④長編小説を映画化するには4つの方法があると思う。
ⓐ全体をダイジェスト的に粗く描く。
ⓑ幾つかのエピソードを抽出して密に描く。
ⓒパート1、パート2・・・・のように分割して密に描く。
ⓓ大長編にして密に描く。
★近年多いのはⓑとⓒ。
★本作はⓐに相当し、全体のアウトラインは理解出来るが（長所）、表面的で深みが感じられなかった（短所）。
