シズヲ

違う惑星の変な恋人のシズヲのレビュー・感想・評価

違う惑星の変な恋人(2023年製作の映画)
3.9
むっちゃんはベンジーが好き、ベンジーはグリコが好き、グリコはモーが好き、モーはむっちゃんが好き……。4人全員がそれぞれに片想い、何一つ矢印が噛み合っていない面々によるヘンテコ恋愛漫才映画。『このハンバーガー、ピクルス忘れてる。』も見たのでいつかこっちも見ようと思ったまま先延ばしを繰り返し、結局今になってやっと鑑賞である、

全編に渡ってシュールな掛け合いが繰り広げられ、主要人物4人が代わる代わる入れ替わりながら漫才の応酬を演じていく。言うなればすれ違いの恋愛コントであり、それこそが本作の肝である。最初から最後までコメディ的なユーモアが骨子となっていて、そこにほんのり奇妙な愛おしさが散りばめられているのが良い。間を意識しているであろうテンポ感に加え、長回しによるマンツーマンの掛け合いが多いので、なんとなく舞台劇めいた味わいがある。そして皆グリコとかモーとか変なあだ名で呼ばれてる緩さが何とも好き。

登場人物達のすっとぼけた交流の様子を見ているだけでも笑ってしまうし、彼らの魅力を構築している役者陣の演技や雰囲気もやはり良い。誰も彼もが何処か間が抜けてて、素っ頓狂で、それでいて何となく憎めない愛嬌に満ちている。むっちゃんを演じる莉子さんのビジュアルが可愛くて好きだけど、キャラとしては中島歩さんの“軟派でだらしないイイ男”感が特に好き。モーくんのズレた感じの直向きさも絶妙な味があって笑う(綱啓永さん、戦隊モノでブルーやってたんだね)。

とはいえドラマの再編集映画だった『このハンバーガー〜』からの発展性には乏しく、長尺化しても半ば俳優の魅力とユーモアだけで成立している感はある。“シュールで愛嬌があって笑える”以上の感性の広がりがあんまり無い感じで、あともう一歩のオフビートなセンスに欠けている節はある。そういった点もあり、同系統の作風である今泉力哉監督などに比べると分かりやすいぶん即物的で幾らか落ちる印象。

オープニングや時系列入れ替えなども含めて洋画のオマージュらしき要素は見受けられるけど、その辺りも独自の作家性にはそんなに繋がっていない感。タランティーノもそうだけど、コーエン兄弟あたりも好きなのは伝わってくる。それとハンバーガーに引き続き、下着だ何だのセクハラ的なシモネタをやたら使いたがるのは良くない気がしないでもない。

そんなこんな言いつつも、見ている最中は何だかんだ可笑しさで笑ってしまったのはそう。山場であるスポーツバーの下りはそれまでのユーモアが極まっててとても好き。まだ作風的には一点集中特化すぎる感も否めないとはいえ、憎めない魅力はあるので次回作以降も気になるところ。それはそうとベンジー、『このハンバーガー〜』でも別の女の子と付き合っていたので笑う。
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