シズヲ

荒野の用心棒 4K復元版のシズヲのレビュー・感想・評価

荒野の用心棒 4K復元版(1964年製作の映画)
4.0
「バクスターがいて」
「ロホがいて」
「その間に俺だ」

この男が銀幕の世界に颯爽と現れ、後世における“西部劇のガンマン”のイメージは完全に決定付けられた。本作はあくまで『用心棒』の換骨奪胎ではあるものの、同時に“西部劇”というジャンルそのものの換骨奪胎を果たしているのがミソである。

“荒野をふらりとさすらい、町に蔓延る悪党を退治し、また風と共に去っていく”というアウトロー系ヒーローものの構図自体は往年の古典的西部劇でも散見される。本作はそこに“名無しの男”という稀代のキャラクターを据え、以後のジャンルの概念を席巻してしまったのが凄まじい。葉巻を咥え、ポンチョを纏い、早撃ちを武器にし、クールに佇む、ニヒルで寡黙なガンマン……その後のパブリックイメージとしての“西部劇”をたった一人の男が形作ってしまった、その偉大さ。紛れもなくアイコンと化している。

殺伐としたシニカルな世界観やエンニオ・モリコーネの鮮烈なスコア(口笛もエレキギターもここが原点)、クローズアップとロングショットが大胆に切り替わる撮影・編集など、既にセルジオ・レオーネの作風は確立されつつあるのが伝わってくる。特にクリント・イーストウッドの風格を発掘したことは何度振り返っても偉業として素晴らしい。他の面々も悪役のジャン・マリア・ヴォロンテを中心に、よくぞこれだけ濃い顔立ちの俳優陣を集めたと唸らされてしまう。ここから『夕陽のガンマン』へと繋がって、作家としての成熟を迎えることが改めてよく分かる。原典よろしく“二大勢力が争うゴーストタウン”という構図が踏襲されたうえで、鮮やかなカラーによる作中のビジュアルも相俟ってより乾いた死臭が漂っているのが印象深い。

独自のイメージを構築することは果たしているものの、基本的には前述した通り『用心棒』の換骨奪胎、というか亜流としての気質が強い。原典の踏襲と予算の都合もあって舞台設定はやくざな雰囲気が強すぎて、絵面的な世界観の広がりには乏しい。町自体の生活感や人間味が薄いので、西部劇としては若干物寂しい感じがある。また今となっては典型的になりすぎたイメージや、アクションよりも右往左往する駆け引きに偏った展開など、現代の感覚で見ると少々緩慢に感じる部分があることも否めない。

とはいえ本作で発掘・開拓された世界観が『夕陽のガンマン』によって洗練されることを思うと、やはり金字塔としての価値が大きいことが改めてわかる。後世における西部劇なるものは概ね“マカロニ・ウエスタン”のイメージで空想されるが、この映画こそが全ての始まりなのだ。それにしてもスクリーンで聴くモリコーネのサウンド、やはり音圧がすごい。
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