シズヲ

夕陽のガンマン 4K復元版のシズヲのレビュー・感想・評価

4.4
「何を賭けたんだ?」
「お前の命さ」

『荒野の用心棒』から連なり、後世におけるジャンルの肖像を確立させた偉大なる作品。前作でクリント・イーストウッド=名無しの男がアイコンとしてのガンマン像を打ち立て、本作がその後の“西部劇”のパブリックイメージを決定付けた。クールな賞金稼ぎ、ならず者の賞金首、早撃ちのガンファイト、銀行強盗、復讐劇、拳銃同士の決闘……。マカロニ・ウエスタンという虚構の荒野が、紛れもなく本作によって伝説的な領域へと到達したのである。

閑散とした雰囲気が漂っていた前作に対し、本作は“イメージ化されたフロンティア”の世界観が一気に広がっている。機関車の通る鉄道や西部の町並みなど、前作に比べて圧倒的に舞台設定の生活感と華やかさが増している。予算が大幅に増えたことが絵面からも伝わってくる。それに伴いセルジオ・レオーネの演出も前作以上に洗練され、エンニオ・モリコーネの雄大なスコアとの相乗効果によって鮮烈なビジュアルが構築されている。“溜め”の美学に溢れたラストの決闘シーンの高揚感、まさしく以後の作品に連なるレオーネの真髄めいている。撮影の遠近感のダイナミズムも更に冴え渡っていて、銀行前で待ち構える悪党と見張り三人を捉えた奥行きのある絵作りなんかも非常に格好良い。俳優の男臭い顔をこれでもかと映し出すクローズアップもやはり強烈。以後の作品で顕著になるフラッシュバックの演出も見受けられるのが印象深い。

前作と変わらぬニヒルな風格を滲ませるイーストウッド、前作以上の大悪漢ぶりを見せつけるジャン・マリア・ヴォロンテ、共に素晴らしき存在感で映画を引っ張る。本作の凄さは、新たに加わりながらも二人と全く遜色のない(あるいは二人以上の)存在感を発揮するリー・ヴァン・クリーフである。クールでワイルドなイーストウッドとは対照的なクリーフの黒尽くめの老練な佇まい、筆舌に尽くしがたい魅力に溢れている。早撃ちを得意とするイーストウッドに対し、長身の拳銃による狙撃を繰り出すクリーフという差別化の格好良さ。銃撃を前にしながら外付けのストックを冷静に拳銃へと装着し、そのまま精密射撃で賞金首を仕留めるシーンは最高に痺れる!クラウス・キンスキーやホセ・テロンなど、要所要所で見受けられる強烈な脇役も良すぎる。

尤も『荒野の用心棒』ほどコンパクトではなく、かといって『続・夕陽のガンマン』ほど雄大な長旅でもない本作の尺は少々中途半端ではある。以後の作品では荘厳さに繋がる冗長な演出も、本作の時点ではまだどっちつかずな印象はある。また銀行強盗のシーンを越えた辺りからは『荒野〜』と同様、少々緩慢な駆け引きが繰り広げられる感は否めない。とはいえ西部劇のイメージとして確立された本作の魅力は凄まじく、以後のジャンルの金字塔となるだけの風格は間違いなく感じられる。レオーネは偉大なる本作を経て、『続・夕陽のガンマン』によってジャンルを超えた作家性を構築するのだなあ。
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