タイトルが『温泉シャーク』なのでね、これはもうアレだろ! アレな映画に違いないだろ! という確信めいたものを持って劇場へと足を運んだんですが、まぁアレな映画であることは間違いないのだが思ってたよりもずっとちゃんとしてるっていうか、いやちゃんとしてるってのとも違うんだけど凄く好感が持てるタイプの映画でこれはもっと客入ってほしいなぁと応援したくなる作品でした。
ま、タイトルから分かるように低予算のB級C級映画なのは間違いないんだが、その手の映画によくある「こんなもんでいいでしょ?むしろショボイ映画を観にきたんでしょ?」という負の馴れ合い感がなくて、あくまでも客に最高に面白い(と作り手側が思ってる)モノを観せてやろうという志の高さを感じるんですよね。とりあえずバカみたいなサメが出てきたらどれだけ画が安っぽくて内容が陳腐でもお前ら喜んじゃうんだろ? というある種の甘えが無くてちゃんと面白い映画を作ろうという意志を感じるんですよ。面白い映画を作ろう、とか映画作る人なら当たり前にみんな思ってることでは? と思われる方もいるかもしれないが、B級やC級にとどまらずZ級とまで呼ばれるような映画の中には「どうせこんな映画誰もまともに観ないんだから真面目に作る必要もないや」という気持ちを隠そうともしない作品もあるんですよ! 俺は正直『温泉シャーク』もそっちよりの映画だと思っていた! でも全然違いましたね! この場を借りてどうせ適当に作った映画だろうと思っていたことを謝りたい。申し訳ございませんでした。
んで映画の内容はどうかというと現実の熱海市がモデルであろうと思われる人気の温泉地である暑海市の海岸で温泉客と思われるバラバラ死体が相次いで発見されるのだが警察の捜査は一向に進まない。どうもサメのような海洋生物に食い殺されたっぽいのだが被害者の所有物はおろか水着の一片すら見つからないので捜査に行き詰る警察。そこへやってきた海洋生物の博士と警察が合流して捜査が進むと、意外な殺人サメの生態が明らかに…! という感じのお話ですね。
全体的な印象としてはいわゆるサメ映画成分よりも特撮映画成分、特に『シン・ゴジラ』の作風をかなり参考にしてると思われる構成で、すぐ上であらすじ説明したように序盤は温泉宿(ホテルや旅館)の大浴場にいたはずの観光客が海岸で死体となって発見されることの謎を追うミステリーっぽい展開になるんですよ。死体の状況的に人間ではなく肉食の生き物(それも海の生き物)であろうことは早い段階で分かるのだがその正体を追っていく感じが『シン・ゴジラ』でいうならば例の上陸した蒲田くんのアイツ一体何なんだよ!? の衝撃から始まる専門家たちの怒涛の分析と解析パートと(構成的には)似ているのだ。無論、そこは物語の展開の構成が似ているだけで『シン・ゴジラ』とか『ゴジラ-1.0』と比べたら映像の迫力や説得力なんていうものは足元にも及んではいないのだが、ちゃんとストーリーの展開に盛り上がりが生まれるようには作られているのである。
もうね、サメに限ったものじゃなくゾンビとか殺人鬼とかが出てくるようなC級以下の超低予算映画の中では物語がちゃんと盛り上がっていくだけでも凄い! ちゃんと面白くしようとして頑張っている! ってなってしまうんですよ。観てる人はほとんどいないと思うけど『ゾンビ津波』っていう津波に乗ったゾンビがビーチリゾートに襲来するという超Z級なゾンビ映画があるんだけど冒頭10~15分くらいの津波と共にビーチに押し寄せるゾンビの大群を多少は頑張って作ったCGで描いた後は残りの上映時間はずっと山も谷もなく緊張感もないゾンビ(というかメイクがしょぼすぎて顔色が悪い風邪気味くらいの人にしか見えない)たちとじゃれ合ってるだけで終わるような、こんなもん作ってる奴らも絶対面白いと思ってないだろ! っていう映画とかもありますからね。そんな映画に比べたらこの『温泉シャーク』は創意工夫に満ち溢れた楽しい楽しい映画でしたよ。
そうは言っても、もちろん低予算のしょうもない映画ではあるのだが志としてはシネコンの一番でかいスクリーンんでかかっても恥ずかしくないものにするぞという作り手側の矜持が垣間見えて、そのギャップもまた独特な空気になっていて良かったですね。意外と人がたくさん死んで正体不明の人食い生物の正体が判明するまではややシリアスと言ってもいいストーリー展開になるのだが、そこでもクソ真面目な展開になるわけではなくて予算的にいかんともしがたい画のチープさに合わせたコミカルなセリフの応酬とかがよく出来てるんですよね。特に暑海市警の署長が「定年退職したら小説家、いやVチューバーにでもなろうかな~、俺でもバ美肉ってできるのかな?」とかとぼけながら言ってる感じとかは役者の気の抜けた演技も相まってクスっと笑ってしまった。その辺の本筋自体はシリアスなのにそれに付いていけない映像の安さに合わせるようなセリフの応酬とかはよくできてるなー、と思いましたよ。
そんで中盤以降殺人生物(まぁサメだが…)の正体が明らかになるとさらにギアが入ってどんどん特撮映画になっていく。例で挙げてる『シン・ゴジラ』は当然意識してるだろうが『ガメラ』シリーズとかも好きなんだろうなぁという楽しいトンチキ感のある展開がどんどん出てきて思わずにやにやしてしまうんですよね。かの『ジョーズ』よろしく観光業のために警察の警告を無視してサメ被害に目を瞑る無能市長とか出てくるのは序の口で、トンデモ理論の飛躍で陸地でも活動できるサメが出てくるともうアクセル全開だ! と言わんばかりに口から可燃性の高濃度メタンガスを吐き出すサメや頭から電磁パルスを発生させてEMP攻撃で電子機器を無効化するサメも出てくる。そうなってくると警察では手に負えずに自衛隊も出動するがどうにもならずに暑海死の存亡の危機に…とまでスケールが大きくなっていくのはまさに特撮怪獣映画という感じだ。恐るべき温泉シャークを根絶するために愛する暑海市が米軍の核攻撃で消滅の危機に陥る、などというのはまんま『シン・ゴジラ』の後半だよなって感じですよ。
そんな感じで予算に即した映像の出来こそしょぼいものの、これでもかと
娯楽映画の面白い展開を詰め込んでくる本作はとても楽しかったですね。個人的には後半の困ったらとりあえずマッチョ出しとけっていうのはやや冗長に感じたが、あれももしかしたら本当はウルトラマンをやりたかったんだけど様々な理由で断念したのかなぁ、という気はした。潜水艇の件とか見るに科特隊的なことやりたいんだろうなぁと思えたし、この作品の主要スタッフがウルトラマンシリーズを愛していないわけがないという確信はあるのでマッチョに関しては大人の事情でオミットした部分があったのかなぁ、と思いましたね。まぁそこは俺の邪推も入った想像だが。
サメ映画の重要な要素の一つでもあるホラー的な怖い部分は一ミクロンも存在しないという欠点はあるものの、それくらいはまぁいいかと思える愉快な作品でしたね。特撮愛といえばミニチュア撮影も随所にあって、それも楽しかったですね。しかし、あんまり褒めてると勘違いされそうなので一応断っておくが全体的にはしょぼくてしょうもない映画ですよ。間違っても『シン・ゴジラ』とか『ゴジラ-1.0』とか、直近ゴジラとしては『ゴジラ×コング 新たなる帝国』のようなものを想像したら期待外れもいいとこだけど、それらのタイトルにも負けないほどに面白い特撮パニックを作ってやろうという心意気だけは感じる映画でしたよ。映画そのものはもちろん、映画を観に来る客のことも舐めてない。サメ映画なんてこんなもんでいいだろっていう甘えた気持ちもない。これは応援したくなりますよ。
オチも良かったしこれはもうちょい拡大上映してほしいですね。面白かった。