emily

クロッシングのemilyのレビュー・感想・評価

クロッシング(2008年製作の映画)
4.2
中国国境に近い北朝鮮の村で暮らす11歳の息子ジュニとその両親。貧しくも幸せな日々だった。ある日妻が肺結核になり、さらに妊娠が発覚する。食料だけでなく、薬の調達も困難な北朝鮮で、妊婦でも飲める結核の薬はとうてい手に入るものではない。そこで、中国へ出稼ぎに行く父。しかしうまくいかず、お金も手に入らない、国にも戻れない状態で、やがて残された妻は病気が悪化し死んでしまう。息子は父を探し中国を目指すが・・

今作の時代設定は今である。だいぶ古い物語のように感じてしまうが、実際に2002年3月“北京駐在スペイン大使館進入事件”と呼ばれる、脱北者25名がスペイン大使館に駆け込んで韓国亡命に成功した事件がモチーフになった作品なのだ。そうして公開されるまでにかなりの時間がかかったとか。

かなり現実に近い状態で北朝鮮の現状が描かれている。子供だろうが妊婦だろうが容赦なく、食べることすらままならない現状で、それでも愛する人のために、頑張ってる人たちがいる。出稼ぎにでて命を落とすもの、そうして二度と家族に会えないもの。。それでも何もしない訳にはいかない。そんな中でもジュノが幼馴染のミソンと再会して、家のものを売り払って得た父に会いにいくための費用をはたいて、ミソンに食事を与えたり靴を買ってあげたりする。自分の食事もままならない状態でもやさしさを忘れていない、情のある行動は愛されて育ってきた家庭環境を物語っている。

ミソンは体調を壊してしまい、膿んでしまった肩から蛆虫が沸いてしまい、死にいたる訳ですが、ミソンを自転車に乗せて走る姿に子供らしさをひと時の安らぎを観客にも与えてくれました。

しかしその後も容赦ない残酷すぎる現実をたたきつけられ、涙も出ない苦しい時間を過ごす事になる。それを流すように激しい雨がふる。雨は少年と父の思い出の時間。雨の中サッカーして笑い合った日々・・あの日々はもう二度と戻らない。それでもあの日々を支えに、父も息子も妻もできることをやった。ただ再会できるその日だけを夢みて・・

現実を卑下することも、誰かのせいにすることもなく、ただ前に進むために、ただ未来のために戦っている人たちがいる。その描き方が非常に良い。救いはないが、そのひたむきさに胸を打たれる。また広大な自然美やその色使いも非常に美しく、未来への希望を彷彿させる。
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