矢吹

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版の矢吹のレビュー・感想・評価

4.1
至福の和音は、神の領分。
我々はもっと幸福だった、ピタゴラスの時代を思い出そう。あの時代に戻れ。
過去、理論家に形を押し付けられたオクターブを解放する時。

人々を扇動する謎のプリンスの声、
暗闇に閉じ込められたクジラ。
我々のスケールを遥かに凌駕する存在から授けられたこの暴動の収束は、
誰の前にも間違いなく訪れる、
小さく儚い、未来の出現によって行われた。
あの立ち姿の、これ以上ない立ち塞がり。
ヘリコプターの回転と接近もそうですけどね、
余計な説明やセリフを用いずに、ただただ、映像だけで語られる、それを見た人々を完璧にコントロールする出来事と、そいつの馬鹿げた説得力。映像の文脈に対する圧倒的な解像度。
映像言語も間違いなく世界共通だもんな。

永遠と不変の概念を優しく説明してくれる、
太陽と地球と月のダンス。
世界は当然、
夜がやってきて、朝がやってくる。
そして、足元が転覆するかのような皆既食が。
闇の中のクジラによって、確かに、世界はバランスを失った。
さらに、我々は、カメラは、主人公の彼の衛星として廻り続けて、その彼もまた、紛れもなく、一つの太陽の周りを渡る惑星であった。

影が伸びる、夜になる、この沈んだ日の後に、いったい何が起こるか。
長く静かに動き続けるカメラが、おそらく僕らよりも少し先に気づいてしまったモノに、飲み込まれる覚悟を、いちいち求められる。
民衆の感情は堰を切ったように溢れ出す。
その足取りの勇猛さと、その後の小さな背中たちへの変化もこうして訪れた。

新聞配達。街中に情報を配る青年が、耳にする、噂話、不満、不平、石炭不足。
焚き火が作る広場の文化。
遠い海からやってくる巨大な生き物。
無垢を食い潰す大人。課せられた諜報。
人は恐れているから、情報を欲しがるのか、情報に踊らされるのか、人は無知だから、恐れているのか。
瓦礫の山を作ることが、フェイクと幻想を打ち壊す方法。って言う、気安い御言葉。
とはいえ、しかし、実際に、全てが剥がされてしまった鯨に、確かに希望を、僕は見せていただきましたけどね。ありがとうね。
最初から鵜呑みにした作為に、騙されるより、
最後に目で見たモノに、黙らされる方がずっとマシ。
やっぱり目指すべきは、言葉の解放になりますか。まずは、横の人間を信頼してください。
ピタゴラスの時代、我々の先祖は満足していた。
まあでも、多分、これは歴とした嘘ですよ。
大きなうねりの中に、気づけばまんまとハマっていた青年を、こうなる前にどうにかできたはずだと。

怒りのキューバをも想起するけど、
やっぱり、プリンスといえば、
まずはパープルレインで、このままドドメ色見つけるハメになるのかと思ったけど、無事、映画はモノクロだった。
もちろん、私は、やる水リスナー。
矢吹

矢吹