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戦雲 いくさふむのfujisanのレビュー・感想・評価

戦雲 いくさふむ(2024年製作の映画)
3.8
『戦雲(いくさふむ)』とは、戦争の訪れを知らせる雲。

本作は台湾有事を念頭に、与那国~沖縄の南西諸島がすでに戦争準備に入っている、すなわち戦雲(いくさふむ)が立ち込め始めていることを伝えるドキュメンタリーでした。

ほとんどClip/Markされていない作品で、全国でも13館という小規模上映でしたが、とても学びの多い映画で、こういった骨太の作品を上映してくれた大阪の第七藝術劇場に感謝です。
(席もそこそこ埋まっていました)

本作は、沖縄を中心に活動されているジャーナリスト、三上智恵さんがマガジン9( https://maga9.jp/ )で公開されている活動をドキュメンタリー映画としてまとめたもので、私自身知らなかった怖い現実を知らせてくれる内容となっていました。

どう書こうかと考えたのですが、映画のパンフの序章の一節をそのまま引用させていただくのが良さそうなので、以下引用します。
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沖縄本島、与那国島、宮古島、石垣島、奄美大島-この美しい島々で、日米両政府の主導のもと急速な軍事要塞化が進行している。自衛隊ミサイル部隊の配備、弾薬庫の大増設、基地の地下化、そして全島民避難計画・・・。
2022年には、「台湾有事」を想定した大規模な日米共同軍事演習「キーン・ソード23」と安保三文書の内容から、九州から南西諸島を主戦場とし、現地の人々の犠牲を事実上覚悟した防衛計画が露わになった。
------------ 映画パンフレット『イントロダクション』より引用

恐ろしいのは、日本が戦争に突入する『法的な整備』はすでに終わっており、政府が『存立危機事態』、『重要影響事態』、『武力攻撃予測事態』 を認定すると、集団的自衛権のもと『自動的に日本は戦争に巻き込まれてしまう』 ということ。

一応は国会承認が必要ですが、今の国会の状況でストップが掛かるとは思えず、すでにこうした『戦争開始の仕組み』が整ってしまっていることに、今さらながら驚きと、恐怖を感じました。



本作では、沖縄本島、与那国島、宮古島、石垣島を舞台に、そこに暮らしている人たちの目線で、要塞化されていく島での普段の生活が描かれています。

漁船でカジキマグロ漁をする漁師の笑顔の背景に映り込む巨大なレーター基地、放牧している牛の背景に映り込む軍事車両の隊列、飼っているヤギが餌をはむ音にかぶさる射撃練習の大音量。島の生活とはよほど似つかわしくないものが同居した、異様な風景が繰り広げられます。

公民館ではまるで村祭りの準備かのように『有事の際の全島避難』についての説明会が実施され、三宅島噴火の際の全島避難を参考に、船と航空機によって島民がどのように避難するのかが具体的に説明されていて、すでに明日戦争が始まってもおかしくないような緊張感。

もちろん、一旦戦争状態になれば遠い島々の出来事とはならず、ウクライナとロシアの状況が示すように、遠方から島以外の地域へもミサイルが撃ち込まれるとともに、この機会に乗じて北朝鮮やロシアが揺さぶりをかけてくることも想定されます。

与那国島にはすでに200両(!)を超える軍事車両が運び込まれ、爆撃に耐えられるよう地下に造られた宮古島の弾薬庫には大量の弾薬が運搬されている。ウクライナのニュースで流れている軍事兵器の名前も頻繁に登場し、まさか日本でもここまで、というのが正直な感想でした。

沖縄本島では有事に備えて避難訓練が実施され、シェルターに市民が避難しますが、暗闇に無言で佇む人々の映像に『太平洋戦争末期の沖縄戦で森の中の洞窟(ガマ)に逃げたことを思い出す』 という老人のつぶやきが胸に刺さります。

可哀想なのは南西諸島に赴任する自衛隊員で、国民を守るという使命のもと、現実的には玉砕戦となってしまうこと。

与那国島では、自衛隊員の父とともに島に引っ越した子どもが地元の同級生達と楽しげに遊び、父は地元の人達と一緒に村祭りに参加し、酒を酌み交わします。最初は自衛隊に反対していた島民たちも、自衛隊員は仲間のようになっていくんですよね。

映画でも、全島避難の説明会での『自衛隊は国を守るが仕事だから我々は守ってくれない』という島民の声に、真剣な表情で『島民の方たちを最後まで守ると約束する』 と語る自衛隊の方。
島民VS国・行政はあっても、島民VS自衛隊員というのは無いし、この構図って太平洋戦争の頃から何も変わってないのでは、と感じます。

地元の高齢者の方が基地のフェンス越しに若い自衛隊員に呼びかける『攻撃されたら逃げなさいね』の優しい声 …その声に頷くことは出来ない隊員ですが、その眼は自分のおじいちゃん、おばあちゃんを見る眼に感じました。



古くは、中曽根康弘による『不沈空母』発言から、安倍内閣から岸田内閣による法整備を経て、昨年の麻生太郎による『戦う覚悟』発言への流れ。
あらためて、日本は着々と戦争へと進んでいる。そう思える内容でした。

有事へ何も備える必要はないと言うほど平和ボケしているつもりはありませんでしたが、あらためて現実を知るべきと思い知った映画となりました。

『戦雲(いくさふむ)がまた湧き出てくるよ
 怖くて恐ろしくて 眠ろうにも眠れない』 ~ 石垣島のオバア 山里節子

是非多くの方がご覧になられますように。

参考:
日本の「防衛最前線」では何が起こっているのか? 映画『戦雲』が映し出す南西諸島住民たちのリアル - 政治・国際 - ニュース|週プレNEWS
https://wpb.shueisha.co.jp/news/politics/2024/03/19/122593/
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