ぼぶ

めまいのぼぶのレビュー・感想・評価

めまい(1958年製作の映画)
4.8
ミステリーだし、ラブロマンスだし、ちょっとサイコというかホラーだし、とにかく言えることは面白い映画だということ。

仕事上の同僚の死亡事故から高所恐怖症になった元刑事が、旧友の頼みで美人妻を尾行することに。その美人妻は何かに取り憑かれたようで、自殺願望があるような不可解な行動をとるため、監視と保護を名目に尾行しているとやはり海に飛び込む。そこを助けてから2人は知り合いやがて…みたいなお話。

映画の要素として、ストーリーや演技、カメラワークに音楽や衣装などなどがあって、もちろん良いなぁと思う映画はそのどれもが良いのだけど、実はもう一つ要素があると思っている。
それは、もう一度観たいか。
その点この作品はその要素どれもが素晴らしいうえに、観終わってすぐアタマから観たいくらいの中毒性もある。

冒頭からおどろおどろしい音楽と共に、目玉の奥に渦巻く螺旋。
やがて棒が見えると、それを掴む手。それは梯子であり、犯人とそれを追う刑事のもの。もうここで一緒に僕の心も掴まれていた。

ネタバレになるともったいないから多くは言えないものの、
高所恐怖症の描写のカメラワークや、教会挟んでの両サイドの描写、紅の内装のレストランにおける不思議と絵画の様に浮き上がる金髪と緑のドレス、50年代のサンフランシスコを車で走る雄大な景色やクネクネとした街中の風景、ジョンが見る悪夢の表現(特に窓辺に3人いたのは背筋にきた)、ホテルの緑色のネオンに包まれたりそれで余計な表情を隠したり、怪しい暗い部屋からのまるで異世界のような明るい花屋さん…などなど、映像やカメラワークはさすがのヒッチコック。枚挙に暇がない。

グレーのスーツをはじめとする50年代の美しいファッションや(バックシームのストッキングとかすごく素敵)車たち、優雅さを伝えたり、絶妙に不気味さや不安感を煽る音楽もニクい。

単なる尾行仕事と思ってたら惹かれ合い恋に落ちたジョンたちと同じく、単なる祖先の絡んだミステリーと思っていたら、気付けばメンヘラの話…いや、さらに愛しい虚像を追う男と、現実を受け入れて真の愛を求めた女のラブロマンスを観ることになるとは。
メンヘラの愛は深く、だからこそメンヘラはメンヘラを生むというのは、これまでの人生で実体験でも知っていたところなのだが、その先があったのがストーリーとしてさすが。
前後半の演技分けもすごい。

メガネの元婚約者は良い子だし、ブラのデザインしてるのにいつもノーブラっぽいのは面白いし、きっとメガネとると綺麗なんだけど、あえてあのポジションにいてくれることで、日常感と非日常感が交錯して狂わせてくれる。
そしてとにかくマデリンは美しい。
そうして徐々にイカれたフェチズムと狂気がじわじわと沁み渡るのに、嫌な感じはしなくて、むしろ少し悲しいのは、終盤破く手紙で僕らに教えてくれているからだろうか。

どのシーンを切り出しても画になり、どの部分の展開をとっても感情を揺さぶられる、メイクと所作で女性はこうも変わるんだなとも学べる、素晴らしい一作。
こんな作品が60年も前に完成しているとは。

あのジョンが、見下ろしていたんだ。。
ぼぶ

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