KnightsofOdessa

Favoriten(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Favoriten(原題)(2024年製作の映画)
3.0
[オーストリア、イルカイ先生の教室] 60点

2024年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ウィーンのファヴォリーテン地区にある小学校に通う25歳の子供たちの3年間を追ったドキュメンタリー。ファヴォリーテン地区は歴史的に移民が多く暮らす場所でもあり、6割以上の生徒はドイツ語を母国語としていないらしい。生徒たちはドイツ語を学んでいく過程で、異文化の共存や女性への態度、自分や家族が信じる宗教、自らの将来などを多角的に学んでいく。やはり興味深いのは"文化"とはなにか?という問いに真剣に向き合う三人の男子生徒たちのシーンだ。彼らは慣れないドイツ語を使って自分の思う"文化"を口にし伝えようとする。本作品を見る前はマリア・シュペト『バッハマン先生の教室』に似た教育に関するドキュメンタリーと思っていた。確かに本作品におけるイルカイ先生はバッハマン先生のように優しくときに厳しく生徒たちに接しているし、同じく生徒たちに"言語化させる"ことを徹底しているが、本作品では信じられないくらいカメラが近いのに意識されない。常に生徒たちの目線に合わせているのに、存在すら感じさせない。あるシーンでは女子生徒の頭を男子生徒叩いたか否かという事実確認を他の生徒の前で行っていて、次のカットでは叩いたと言われた男子生徒がその女子生徒の絵に落書きしようとしたり名前をイジり始めたりする。これがカメラに記録されてるの凄すぎだろ。『バッハマン先生の教室』では、どこか生徒たちが借りてきた猫みたいな感じにも見えたが、本作品の生徒たちは全くそんなことがない。一応、世代的にというのと、子供たちが互いに撮影するためのスマホを撮影隊か学校が渡しているのとで、ある程度カメラとの距離感みたいなのはバグってるのかもしれないが、それにしても凄えなと。大まかな教育方針は『バッハマン先生の教室』に似ていたが、全員の前で成績を発表したり、全員の前で暗算が出来ない生徒を"too bad"と罵倒したり、水の循環についてプレゼンした生徒を別の生徒が批評する授業があったり、教育的にどうなんだろう?という点も散見された。バッハマン先生のクラスには通ってみたいが、この教室は普通に病みそうだなと思うなど。授業風景や休み時間における生徒たちのあれこれの合間には、イルカイ先生や他の教師陣が登場し、サポートが必要な生徒たちが多い中で、リソースが全く足りていないことを告白する。学校のソーシャルワーカーは近くの中学校にかかりきりでコチラには来られないし、セラピストも産休でおらず、これ以上一人も欠けることが出来ないようなギリギリの状態で運営されているらしい。ただ、基本的にはコチラにフォーカスされないので、大変そうだなという印象を受けるのみだった。なんだか惜しい映画だ。
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