むっしゅたいやき

密告の砦のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

密告の砦(1965年製作の映画)
3.8
リテラシーの奨め。
久し振りの監督作品であり、昨今の本邦に於ける「ネトウヨ」の皆様方のご尊顔が思い起こされる作品である。
ヤンチョー・ミロークシュ。

オーストリア帝国時代のハンガリーは、従属的な立場であった。
1848年のマジャル人によるハンガリー革命は、ロシア帝国軍の支援を受けた、墺帝国軍の介入に依って制圧されている。
本作は革命失敗後、アウスグライヒへ至る迄のハンガリーに於ける、警察国家としての側面をフォーカスした作品である。

ヤンチョーの作品は、具体性に欠ける。
本作の舞台となる収容所もハンガリー平原の只中ではあるが名称も無く、また登場人物達も名前やキャラクタに重要性や「其処に居る」バックグラウンドが無い。
最初主人公かと思われる囚人も、中盤敢え無く退場する為、鑑賞者が没入感を得る手段は無い。
監督特有の長回し、ロングショットの多用と相俟って、事物を徹底的に俯瞰した立ち位置からの鑑賞となり、また是れに拠って「何処の国・地域でもあり得る」普遍性を担保している。

物語は、収容所と云う狭い空間内でのマジャル人に由るマジャル人への抑圧、及び密告の推奨を中心に進む。
舞台は反乱分子を集めた収容所であるが、囚人への肉体的追及よりも、精神的─反乱への意思を挫く事─へと重きを置いた尋問や使役が印象に残る。
殊に終盤、帝国軍への反乱分子である囚人に、墺帝国軍の制服を着せて行進させるシークエンスは興味深いく思われた。

ラストはどんでん返しが判明した処で終劇となる。
彼等は“踊らされた”訳であるが、本邦に於いても某国の国家情報院から金銭を受け取った政治家が、当該国の嫌○を扇動していた事実が有る。
彼女に踊らされ、また某国由来の反社会的宗教団体、その看板であった者にも同様に踊らされていた人々へ、痛烈に突き刺さる作品であろう。

スコアは個人的な趣味嗜好を反映させている。
余りにも登場する人物達から心情的に遠く離れ、達観し過ぎている様に見える本作には余韻と言える物も無く、私の琴線へは響かなかった。
寓話、として観るべき作品であろう。
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