針

幕末太陽傳の針のレビュー・感想・評価

幕末太陽傳(1957年製作の映画)
4.1
幕末の品川にある女郎屋を舞台にした群像劇。観よう観ようと思いつつなかなか手が出せてなかったけど、こりゃ快作でした。

ストーリーは落語の『居残り佐平治』を核に、いろんな演目を混ぜこぜにして一本の話にまとめていますが、出来上がった全体像はかなりオリジナルな作品という感じ。自分は元ネタが分かるエピソードと分からんエピソードといろいろでした。元の落語の滑稽な笑いの味は残しつつ、表現方法は当然映画的に咀嚼されたもので、セリフによるギャグ、スラップスティックなギャグ、役者同士の味の掛け合わせによる面白さなど、いろんな笑いがふんだんに取り込まれた作品という印象でした。

役者陣もすごい豪華。山のように人が出てくるんだけど、それぞれのストーリーを良いテンポでスイスイ捌いていく感じが小気味よかったです。『州崎パラダイス』といい『しとやかな獣』といい、川島雄三はいい意味でもわるい意味でもふてぶてしくて力強い人間を描くのがうまいなーと思いました。

おもしろい方はたくさんいたけど、やっぱり主演のフランキー堺がいいんでしょうね。ずうずうしいけど嫌味になりすぎないところではしゃぎ回りつつその実非常にコスッからい。さすがに彼無しでは全然別の雰囲気の映画になってるだろうなーと。それにしてもまるで平賀源内みたいな佐平治だ……。
ラストに置かれたエピソードも、それまで無敵な佐平治にもう一枚面白さを上乗せするような感じがあって、素人ながらも「分かってるなーこの作品は」と思わず溜め息をついてしまいました。

女郎屋の客も幕末浪士も店側の人間も、全部ひっくるめて「しょうもない人間群像」という感じがあってたいへんいいのですが、その中でもチラッと心が通い合う場面とか人情の機微を見せるシーンとかがところどころにあって非常にちょうどよい喜劇感。
そしてそういうバカバカしいストーリーの中に、明日どうなってるか誰にも分からない幕末の状勢や、人生というもののあっけなさのようなものが影として潜ませられていて、最後は祭りのあとのような一抹の寂しさを覚えました。
かなり楽しい祝祭映画で、名作と言われるのもむべなるかなーと思いました。
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