リコリス

エドワード・サイード OUT OF PLACE 4Kのリコリスのレビュー・感想・評価

4.8
今、見なくてはならない映画。もう数回見ないと消化しきれない。パレスチナだけではない、抗えない国の権力で居住地を追われる人々。人間の思想信条は、何処で、どのように生活するかに必ず縛られると思う。

あやふやな記憶だが覚えておきたい、いくつか。
・レバノンのパレスチナ人は職業も制限されレバノン人にはなれない。イスラム教を信仰。
・でもパレスチナ人にもキリスト教を信仰する人々もいる。
・イスラエルに住む選択は、世界の何処にいても仮り住まいと感じるユダヤ人にとって意味が深い。
・今もキブツで暮らす東欧出れは身の男性は、絶滅収容所で家族親族の大半を失った。
・イスラエルのユダヤ人といってもシリアなどアラブ地域、近年はロシアなどからも。多文化多民族国家。価値観や生活習慣、食文化を、国ではなく自分が所属していた地域、家族や民の歴史として忘れたくない人々もいる。
・アイデンティティは強権によって作らされる。だが自分たちが生活の中で見出して繋いでいくものは強い。
・かつてアラブ人とユダヤ人は共存していた。シオニズムの後ろに大国同士の思惑がある。
・ペンでパレスチナ人のあり様を伝えるのも、戦い(ジハード)。でもサイードは知識人として、あらゆる権力とは距離を置いた。自分の所属できる場所を書くことで作ろうとしたが、実際は故郷はなかった。
・本来、一国に二国民は存在し得る。音楽を奏でるのと同じように。
・サイードの墓はパレスチナでなく、妻の故郷レバノンに。サイード一家はアラブ人なのにエジプト国家主義台頭でエジプトを追われた。
・何処へ行くにも帰って来れないかもしれないから、沢山持って行く。サイードの思想を憎む人々により生命の危険もあった。

佐藤監督は阿賀で(公害は原因の一)故郷を失っていく人々も追っている。福島、能登…。そこで行われていた風習や人間同士の繋がりも切れてしまう。このサイードの一生を追う20年前の映画は預言書のようだ。

20年経ち、既にシリアは底無しの内戦、アレッポという音に泣く。イラクはISで荒廃、パレスチナの惨状は止まらず、映像の中の建物は瓦礫かもしれないまた国家主義が幅をきかせ、多文化多民族共生が分断または極度の同化政策に。ウクライナ。台湾。。。数え挙げられない。

映画で引用されたサイードの言葉。それでも苦しみながら楽観主義を持ち続けるのは可能なのだろうか。

様々な作品中の引用で、サイードの名。大よそ考えを知っているつもりだったが、恥ずかしい、著書そのものを読んではいないので、これから読んで生きていきます。
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