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オッペンハイマーのリコリスのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.6
ノーランにしては分かりやすい構成。凄い音響。大画面で見たい。(エンドロールが短いのはCGを使わないから?)

1.オッペンハイマーが主導するマンハッタン計画での原爆開発。2.原子力委員会長ストローズの企みによるスパイ容疑、赤狩り、名誉剥奪。3.聴聞会によるストローズ失脚と名誉回復。この時系列が若干錯綜するが基本は1。

既にヒトラーが自殺して連合国の勝利は確実なのに、日本に二度も投下された原爆。ロス・アラモスのトリニティ実験の成功までが科学者、そこからは何を訴えようと軍人、政治家が進めていく。(映画では誠実そうなグローブス准将は、大戦後を見越し歯止めなく投下することを進言していたらしい)。

トルーマンが道義的に苦しむオッペンハイマーに、被害者は原爆を作った科学者でなく落とした政治家を憎む、という。でも科学者だって、核兵器を産むとは、石の下から蛇。破壊は新しい世界平和の構築でなく、果てしない軍拡競争になると分かっていた。

妻のキティの、貴方が理不尽な赤狩りと戦わないのは、自分の犯した罪の責任を感じているから云々のセリフ。(ストローズによる赤狩り名誉剥奪が私怨のような、みみっちい原因からに見えるのだが)、実際、原爆の成功に対し、アメリカの国旗をふり熱狂する仲間に反省なき正当化を演説したオッペンハイマーの姿は、軍人、政治家同様に胸糞悪い。

あの日のキノコ雲の下で同時間に何があったのか、忘れようもない。

トニリティ実験に携わった科学者の多くも被曝している。オッペンハイマーは後世、核軍縮を訴え続けたそうだ。科学技術そのものには倫理が無く、運用に是非が問われるというが、本当に科学者は無罪なのか?

「我は死神なり、世界の破壊者なり」人間の知の水準を押し上げたことで大量殺戮兵器、異常気象、生態系破壊もろもろが止まらない。戦争に勝てる、とオッペンハイマーに拍手喝采した醜い顔の中の一人にはなりたくない。
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