リコリス

MINAMATAーミナマターのリコリスのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
4.5
自分の過去の人生から抜け出せない男が、聖母子のような水俣の母子を撮ることで(向き合わせてもらうまでの関係性を築く過程が、映画を観ている私たちのようだ)再生する物語。

それが1972年で水銀は垂れ流され続け、LIFEは廃刊し、その後も世界で、水銀汚染、公害、金儲けと引き換えの環境破壊は止まないけれど、ユージーンの写真や報道(石牟礼道子『苦海浄土』も忘れてはいけない)、熊本大学を中心とした研究、企業や国に対峙した患者さんたちの力で、MINAMATAは対環境汚染の世界モデルとなる。

と知った若い頃は、許すまじ、この事実を共有していかねば、と怒りが起きたが、今は、私もチッソの社長側にいることも知っている。日本が快適に安くモノを調達する陰で、他の開発途上国に負の遺産を押し付けているのだから。
だからユージーンの暗室炎上に加担しているようで、母の笑顔を大事にしてくれたと病室に訪ねてくる男の存在が響く。後ろめたい私がそこにいる。

またLIFEの編集長がユージーンの写真を見る表情、智子さんの両親が日本に着いたばかりのユージーンたちに食事を振る舞う様子はココロに沁みた。

フィルムで撮る写真の力。自分が削られるだけでなく、関わることで変わる。写真を見る側に突き付けられる固まった時間の凄み。見えて無かったものが、時間に切り取られ、はっきりと見えてくる。

映画に時折はさまれる当時の映像や写真に、自分はどちらの側にいるのか、突きつけられるようだった。淡々としているようで、色々思い出された。
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