リコリス

金の糸のリコリスのレビュー・感想・評価

金の糸(2019年製作の映画)
4.5
素には何処に行き着くのか…と、ジョージアの作家で79歳エレナが、60年ぶりに語り合った元恋人アルチルと歌う、踊る、メロディーの美しさがさらって行った。

エレネの元恋人の心、幼いエレネから両親を、特に母を極地の労働刑に、更にエレネから表現を20年も奪った、娘の姑でソ連時代の政治家だったミランダと同居することに。

そのミランダは認知症で、動物園と呼ぶ狭い部屋に移り住み、どうやらエレネとの過去は忘れ始めている。でもミランダに感謝を述べる人々もいるし、ミランダがエレネのために、つてでロシア時代の音楽家(老女二人)の私的演奏会を開いたり、私物を売って寄付をしているのを知ったエレネ。滅多に咲かないサボテンが花開き、ミランダは記憶の中に迷う。

エレネが開け光を入れようとする窓を閉めるミランダ。仲良く紅茶を飲む時間。

過去を恨むのか、許して受け入れるのか。いさかいの耐えない若い二人のように争いながらも愛し合うか。エレネは同じ名の曾孫のエレネに何を遺すのか。ジョージアとソ連の歴史に疎い私にも伝わる過去の痛み。それだけでなく、過ぎ去った過去と老いに直面した個人の折り合い。

美しいコトバが沢山出てくる。カラヴァッジョの老いがもたらす陰影。バッハの喜ぶ力。作家のエレネが紡ぐコトバ。
エレネがまとう古いドレス。母親の残した白い粘土の人形。孫のエレナの描いた通りの絵。空の花瓶に色とりどりの野の花を見る。

金の糸は日本の壊れた陶磁器を継ぎ合わせる金継ぎ。監督は91歳で、歴史の亀裂を赦して先に進むように作品で示した気がした。

配給はムヴィオラさん。いつも素晴らしい映画をすくい上げて見せていただけることに感謝。
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