映画へのモチベが下がっているので、せめてタイムリーかつ人気の作品は観ておかないと。新進気鋭で多くの斬新なホラー映画を繰り出し続ける NEON。『Cuckoo/カッコウ』の次は、日本国内でも話題の『ロングレッグス』です。以下レビュー。
1990 年代半ばのオレゴン州。過去30年にわたり、誕生日が14日の娘のみがいる家族が狙われる殺人事件が頻発していた。いずれの現場には「ロングレッグス」という署名付きの暗号が残されているのみだった。この未解決事件解決に挑む捜査官ハーカーは、その驚異的な直感を買われ捜査に乗り出すこととなる。しかし、真相を追求するうち、彼女は事件を取り巻く衝撃的な法則に出くわす……。
✔映像
一言で言うならば、美しいです。画面比を考慮したうえで、繊細かつ緻密に計算されたセットおよび小物の配置やカット割り、そして登場人物たちの捉え方。どれを取っても驚くほど丁寧で綺麗に構成されています。少し飛躍した考察かもしれませんが、ところどころシンメトリーの構図を取り入れたカットが点在しており、ウェス・アンダーソンの世界観を想起させる瞬間もありました。多くのシーンで使用された曲調やメロディーの基本的な法則を無視した実験的なサウンドトラックは、聞いていて耳が痒くなるような不快感があって逆にクセになり、美しく形作られた映像と相まって尋常ではない不安と恐怖を与えてくれます。
✔マイカ・モンロー、ニコラス・ケイジ
このタッグは予想できなかった。新たな若き FBI 捜査官と殺人鬼の対峙は、世界中の映画ファンを魅了したクラリス捜査官とレクター博士の掛け合いを思い出させたことでしょう。自由奔放、陽気、脆さといった要素が強いキャラクターを演じることの多かったマイカ。分析能力の高さに加えて冷静沈着な面が目立つことが多いものの、恐怖ないし異常に対する繊細な精神が災いして追い詰められていくという複雑な人物像を持った捜査官ハーカーを投影させた彼女の演技は、気迫と人間味に満ちていて本当に素晴らしかった。ニコラスはこれまで、「好きなことを好きなだけやる自由奔放で楽しい俳優さん」として人気を博していましたが、それと同時に幾度もこのイメージを覆してきました。そして本作でも再び、名優としての彼を確立させる演技を垣間見た気がします。癖のあるシリアルキラーの放つ声色、表情、体の動き、セリフの重み、何から何まで全てが恐ろしいほどに洗練されていました。彼の凄さを身に染みて実感しました。ニコラス・ケイジってやっぱり凄いなぁ。私自身、好きな俳優さんの話を挙げてレビューするとなると、そもそも好みに偏りがあるうえに、何故かその俳優さんに詳しくない点もあるために話が広がらずレビューが書きづらいですが、特定の作品での俳優さんの演技についてのレビューはいくらでも書ける不思議。
✔longlegs とは?
本作において重要な主要キャラクターである殺人鬼「ロングレッグス」 。彼と深い関わりのある人間や組織の存在もキーポイントではありますが、 彼の名前こそ、この映画の本質ないし核を捉えていると思います。
「long-legs」 とは鳥類の生態における渉禽という名称の分類のひとつ。コウノトリ、ツル、フラミンゴ等の長い脚を特徴とする種類が一般的です。ひょろ長く細い手足に、独特な歩き方、突発的な発声……今回の殺人鬼に合致する点ばかり。加えて、全身を白色で纏った奇抜な格好をしています。異常なまでに 「得体の知れない存在」 としての雰囲気を放つロングレッグスが、怖くて仕方がなかった。雑貨店での買い物からの帰り道、車内で「ママ」と「パパ」に対し呪文のような言葉を叫び狂う場面とか、特に怖かった。 本編は、当日はレイトショーかつ貸切状態で鑑賞していたのですが、本当にチビるかと……。改めてニコラスの恐ろしいまでに完成された演技に、ただただ脱帽。
研ぎ澄まされた視覚的衝撃と尋常ではない不快感そして恐怖が際立つ一本。凄まじい緊張と不安が張り巡らされた100 分間でした。 『羊たちの沈黙』 以来の狂気に満ちた傑作。お見事。