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マイスモールランドのBeSiのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.8
先日、大学の講義で鑑賞しました〜!!朝の1限からなんて暗いものを観させるんだと終始感じたのは決して否めないですが......。以前からClip!していた作品ということもあり、折角の偶然の機会を逃すまいと思い、いざ鑑賞。未知の価値観や文化の違いの持つ障壁の惨さを実感させられる作品でした。邦画観るのいつぶりだろう......。

✔クルド人移民問題
トルコ、イラク、イラン、シリアの国境に位置する山岳地帯に多くが住まう「世界最大の国を持たない民族」として広く知られているクルド。1950年以降、文化的な抑圧の進行に伴ってクルド人人口を多く抱えるトルコやイラクにおいて、当局政府とクルド人コミュニティとの間でクルド人の独立および分離を求める闘争が過激化。困窮する社会体制に反旗を翻したトルコやイラクはクルド人の言論・文化、政治活動の統制を開始します。やがて、武力抗争や急速する貧困化からの脱却として、多くのクルド人が平和で比較的治安の良い日本に移ることになりました。本作の舞台でもある埼玉県川口市には多くのクルド人が集住しています。しかしその多くが入国管理局における難民申請の基準から弾かれ、日本に移ってもなお厳しい生活を強いられているのが現状。最近では諸地域におけるクルド人ヘイトも急増し、安全な居場所を求める彼らに追い討ちがかけられている状況です。

✔SNSにおける人種差別の現状
先ほど少し言及したクルド人ヘイト(クルド人に限った話では勿論ありませんが)。SNSにおいてはその匿名性を利用した一部のユーザーにより過激化の一途を辿っています。僕がデジタルデトックスをするきっかけとなった要素のひとつです......。「情報のゴミ」が、そういったものも含めて山積みになって見聞きできてしまうのが本当に堪えるんですよね......。Twitterまじで見てられんね〜!!😭😭😭本作の主人公でもあるサーリャも様々な電子機器を扱うことには手馴れているであろう高校生なので、クルドのルーツを持つ彼女は尚更。クルド人ヘイトという惨い現状から目を背けたかったことでしょう。

✔サーリャ
物語の行き先は、これからの彼女の選択や目標に委ねられていると考えます。17歳というある種の節目を目前にしたサーリャ。皆と同じように夢を持ち、希望に満ち溢れている彼女が選ぶ人生とは。17歳という若さで、1人では抱えきれないほど多くの試練に立ち向かってきた彼女の強さは計り知れません。本作における希望そして救いの象徴として、唯一光るキャラクターでした。

✔"マイスモールランド"
ここもまたサーリャに焦点を当てた考察になるのですが、本作のタイトルが彼女の心情を表していると言っても過言ではないと思います。

まず、smallという単語には、サーリャが様々な形態の社会に関わる過程において感じたであろう、自分と他人とで異なる視野の狭さや小ささといった意味が含まれていると考えます。これは本編で用いられたカメラワークにも言えることだと思います。例えば、担任とサーリャの二者面談の場面。初めは2人を映していたカメラが段々とサーリャの方へ寄る形で狭まっていき、サーリャを横から捉えたショットに変わります。担任がなんとか困窮状態のサーリャを励ますものの、当の本人には彼の言葉は終始届いていない様子でした。いかに他人の外国人に対する見方が偏っていて視野が狭いかを、彼女は改めて実感したのかもしれませんね。自分の国民性ないし民族性を理解してくれる人間がごく少数しかない「狭く小さい世界」で生きることの過酷さは、アメリカで生まれた自分の小学校時代に通ずるものがあって胸が締め付けられました。対照的に、朝日に照らされた街並みや土手をサーリャが強い眼差しで見つめる最後の場面では、後ろ姿から横顔にかけて彼女を捉えつつ、背景の全体が映るショットが印象的でした。数々の壁を乗り越えた先にある人生の目標や選択に向かって自分の見る世界をも広げようという彼女の固く強い意志を感じずにはいられませんでしたね。

・land【名】
1. (海などと比較した)陸地
2. (ある用途の)土地、土壌
3. 《one's ~》所有地
4. 国土、国、国家
5. (都市や町と比較した)田舎、地方
6. (注目すべき)領域、世界
7. (耕地の中の)耕されていない部分
8. (ライフルやレコードの溝の)山
並べてみるとこんな感じですが、ここに羅列したものよりもさらに本作のタイトルと主人公の心情を反映させた意味がありました。"《one's~》故郷、祖国" です。

集住しているクルド人の割合の高まりが原因となり、クルド人への偏見や差別の実態が浮き彫りになりつつある川口市。そんな場所に住む、クルド人としてのルーツを持つサーリャ。幾度も直面する高い壁に立ち向かう過程で、とてつもない精神的な苦痛を負いながらも、クルド人として生きるか日本人として生きるかの葛藤や感情のせめぎ合いから次第に距離を取るようになります。これは彼女がクルドという自分にとっての足枷を外し、本当に自分が居るべき故郷ないし祖国を見つけたことを示唆していると考えられますね。

✔キャスト陣
驚くことに、本作のメインキャストにはクルド人の出演者はいません。彼らに実際に社会的地位に関して不利益が出ることを危惧したうえで、サブキャストのみに特定の理由により在留許可を保有している在日クルド人が登場するという形でキャスティングを行ったそう。圧倒的な貫禄を醸した名バイプレイヤーが連ねる中でも、一際存在感を放ったのは主演の嵐莉菜さん。オーディションから選出され、映画初出演にして主演を飾りました。実際に複数の国民性を持つ彼女だからこそ、常に様々な負の感情を心の奥底に秘めるサーリャを体現することが可能になったと感じます。まさにモデルと俳優の二足のわらじを履く逸材。同年代として尊敬の意を表します(同い年とは思えん😭😭😭)。度肝を抜かれるほどの素晴らしい演技でした。


新進気鋭の川和田恵真監督の長編デビュー作。斬新かつ力強いフィルミングに魅了され続けた2時間でした。先進国でありながら様々な社会問題を抱える日本へ警鐘を鳴らす作品のひとつとして重要視すべき一作。素晴らしかったです。
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