しんご

ゲームのしんごのレビュー・感想・評価

ゲーム(1997年製作の映画)
4.2
日々多忙な方は家と会社の往復になりがちな生活を送るなんてことも多いのでは?せっかくの休みも計画倒れでゴロゴロして手近にあるネトフリで映画すらも観ない。日常に無感動になりがちでいつしか周りの人にも無関心に。そんな人が街に出れば電車の中吊り広告、街頭看板に自己啓発系の宣伝がズラり。「何だか胡散臭そう」「お金がかかるのはね...」と横目にそれらを敬遠されたご経験がある方も多いのでは?

この映画はそんな自己啓発をブラックユーモアたっぷり且つスリリングに描いた作品だと思う。「自己啓発」なんて生易しいものではないかも知れない。映画ならではのスケールで展開にはツッコミ所だらけ、しかも参加者に後々めちゃくちゃトラウマが残るであろう荒業な「人格改造ゲーム」が描かれている。

本作の主人公ニコラスは投資家で莫大な資産家。お金で賄えるモノは全て手にした傲慢強欲な男だけどその内面は無気力で、元妻に始まり人との付き合いを必要以上に避ける孤独な人物だ。そんな男の誕生日に弟のコンラッドが「ゲーム」をプレゼントする。主催はCustomer
Recreation Service社。「カスタマー・レクリエーション・サービス」...高層ビルの14階にオフィスを構えるものの名前からして何の会社かも分からないし胡散臭さ満点だ。

そんな会社に興味本位から赴いたことでニコラスの「ゲーム」が開始する訳だけど、とにかくこのニコラスが肉体的にも精神的にもボロボロになります。テレビ画面のニュースキャスターが自分に話しかけ出したのをゴングに、武装集団に追われるわ、タクシーごと海にダイブするわ、挙げ句ウェイトレスの運んできた水さえも飲めなくなるほど疑心暗鬼に。

そうして翻弄される中で段々野性味を帯びて人間味を増すニコラスの変化が面白い。というより、あの状況に置かれたら誰だって同じようになると思うけど笑。
「危険な情事」(85)、「氷の微笑」(92)、「ディスクロージャー」(95)とマイケル・ダグラスは巻き込まれてドつぼにはまっていく役が本当に似合う。

...からのラストは本当に飛躍が過ぎて何か笑ってしまった。その目的のためにそこまでするの?って思ってしまうし、セットアップから帰結までいくらかかったのか気になる。あとニコラスあなたもっと怒っていいんだよ笑。

「セブン」(95)、「ファイト・クラブ」(99)の間に挟まれて影が薄くなってしまった印象は強いが、フィンチャー監督の中でもかなりの佳作というべき1作。

ちなみに、Netflixではネトフリオリジナルの吹替えキャストで作品をお楽しみ頂けます。しかし、マイケル・ダグラスをほぼ専属で務められていた小川真司さん(DVD・テレビ朝日版「ゲーム」の吹替えを担当)は2015年に他界されていますのでダグラスはてらそままさきさんが吹き替えています。同じくフィンチャー監督の「ドラゴン・タトゥーの女」(11)で主演ダニエル・クレイグもご担当されたてらそま氏の渋い吹替えも非常に素敵でしたが小川さんの再録も是非とも観たかった。ご冥福をお祈り致します。
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