ぬーたん

独裁者のぬーたんのレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
4.6
チャップリン作品で真っ先に思い浮かべるのが『独裁者』でしょう。
ヒトラー(ヒンケル)を演じたチャップリンのあまりにも有名なラストの長い演説。
ヒトラーとナチスを批判した大胆な作品だ。
実際、当時ドイツと同盟を結んでいた日本では、この作品の上映は、1960年!
20年後だった。いくら何でも遅すぎる。
全く!情けないぜ。
製作は1940年、アメリカは第二次大戦もまだ参戦しておらず、平和でヒトラーもファシズムも関係なく暮らしている時代。
過去のことならともかく、ドイツではナチス政権が現在進行形の時代である。
しかも強制収容所は1942年頃からで、ホロコースト以前に作った作品とは恐れ入る。
チャップリン自身はホロコーストの存在を知らずに作ったという。

チャップリン初のトーキー映画は、チャップリンがよく喋るが、コミカルで楽しい動きや表情は健在だ。
喜劇と社会風刺とヒトラー批判までしちゃう。
チャップリンはトンデモナイ天才だ。

冒頭、第一次世界大戦の戦場のシーン。
命令に忠実ながら、ビクビクして失敗ばかりのチャーリー。
高射砲台の椅子が逆さになるシーンは笑った!
『街の灯』のボクシングシーンと似て、こういう単純な笑いに弱い私…。
バナナで滑って転んだり、そんな単純なことがやっぱり一番面白いものなんだね。
飛行機が逆さまのシーンも面白い。
撮影はどうやったのかな。

戦争から20年も経って、チャーリーは自分の床屋の店に戻るが、ヒンケルが支配するトメニアはユダヤ人を迫害していた。
ここでヒロインのハンナと出会う。
ハンナ役は『モダンタイムス』の浮浪少女で私生活でもパートナーのポーレット・ゴダード。
4年の間にすっかり大人の女性になった彼女は最初は分からなかった。
美しく気の強い女性。
ハンナという名前はチャップリンの亡くなった実母の名前らしい。
この作品に賭ける気合いがわかるようだ。

床屋のチャーリーがお客のツルハゲを鏡代わりにしたり、ヒゲそりの仕草、動きが面白い。
何てことないシーンでも笑いにしちゃう。
ヒンケルの方も、バクテリア国独裁者との漫才のようなやりとりや、落ち着きのない言動、そして風船のシーンと、どのシーンも鮮やかで面白い。

2時間という長さで、目まぐるしく場面も変わり、セリフも早口で、疲れて来るが、ラストの演説でぐっと締まって終わる。
作品の感動ももちろんだが、それ以上にチャップリンの映画人としての信念や覚悟を感じて、観ているこちらも高揚する。
そして、役者や監督であると同時に、チャップリンの人間としての器の大きさや勇気、温かな心を感じて、ますますチャップリンに惚れてしまうのだ。

この作品の後で、第44回アカデミー賞授賞式の80歳を過ぎたチャップリンを観た。何だろう?
もう、泣けて泣けて仕方なかった。
追放されて20年後にやっとアメリカの地を踏んで、会場がみんなスタンディングオベーションで。
良かったなあ。
そのうえ、隣にジャック・レモンだもの。
この2ショット、個人的にもう最高でした。
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