大傑作。2025年ロカルノ映画祭コンペティション部門選出作品。アレクサンドレ・コベリゼ長編三作目。長編一作目『Let the Summer Never Come Again』と同じく、ソニー・エリクソンW595の低画質なカメラで撮影された一作。少しでも暗いとこに行ったら何にも見えなくなる、低開発の記憶ならぬ低解像の記録である。主演は監督の実父ダヴィド、音楽と音声は監督の兄ギオルギ、撮影は監督本人が行っていて、後述するが同行者は透明なので、マジでほぼ家族だけで作った作品ということになる。物語はスポーツ写真家のリサが両親に手紙を残して失踪したところから始まる。"探さないで"という彼女の言葉に反して、心配する父親イラクリはリサの同僚レヴァン(透明)と共に、彼女が途中までやりかけていたプロジェクトである"田舎の村にあるサッカー場の取材"の足跡を辿り、彼女を追いかけ始める云々。透明な相棒レヴァンくんは存在が曖昧なだけでなく記憶も曖昧なので、リサの撮影旅行に同行しておきながらどこに行ったか何も覚えていないので何の役にも立たない。ということで、マジで『トレンケ・ラウケン』くらい見つからないまま、186分もの間ジョージアの田舎を彷徨い続ける作品となっている。原題"Dry Leaf"が予測不能な軌道を描くキックを指すサッカー用語らしく、物語も枯れ葉が風に舞うように軽やかに、似たような場所を巡り続ける。
【三宅唱旋風の裏で荒れ狂う3時間のガビガビVLOG映画】 先日、第78回ロカルノ国際映画祭の受賞結果が発表された。三宅唱監督『旅と日々』が最高賞を、空音央監督『まっすぐな首』が最優秀短編映画賞を受賞したことで日本では歓喜に包まれた。一方で、他の受賞作の情報は全く流れてこない。こういう時こそ、他の部門にも目を向けるべきである。実際に今回のロカルノ国際映画祭は当たり年だったようで、中国でキャリアを積もうとするベラルーシ人モデルがモルグの男と惹かれる『WHITE SNAIL』や東京国際映画祭で『私に構わないで』が紹介されているハナ・ユシッチ新作『GOD WILL NOT HELP』、アッバース・ファーディル新作『TALES OF THE WOUNDED LAND』が受賞している。どれも今年の東京国際映画祭に来る可能性を秘めている作品である。そして、その受賞結果の中に『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』アレクサンドレ・コベリゼ新作『Dry Leaf』の名前があった。サッカー場を撮影する女が失踪し、父親が幽霊と共に彼女の轍を巡る3時間を超えるこのロードムービーがスペシャル・メンションを受賞していたのだ。実際に観てみると、想像以上にチャレンジングな、もはや実験映画の領域ともいえる意欲作であった。ボールの軌道を予測不能にする蹴り方を示すサッカー用語から取られているだけあってトンデモナイ変化球だったのだ。
オープニング映像で強烈な違和感を抱いた。イメージがガビガビなのだ。YouTubeの144pレベルの低解像度となっているのだ。ネットワークが悪いのかと設定を自動から720pに変更し確認する。しかし、状況は変わらない。この時点で「長い旅になりそうだ」と思った。そして、アレクサンドレ・コベリゼは『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』ではなく、『Let the Summer Never Come Again』の監督であったことを思い出した。彼の長編デビュー作『Let the Summer Never Come Again』は低解像度の携帯電話のカメラで撮影された202分ある作品だ。セリフはほとんどなく、人生の何気ない日常を思い出したかのようなイメージの表象として低解像度の映像が用いられている。本作はこの技法を発展させたものとなっている。